乳癌患者において変異が最も多く認められる遺伝子がPIK3CA(ホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸 3-キナーゼ触媒サブユニット α ポリペプチド遺伝子)で、25-35%の患者がこの遺伝子に変異を有するといわれてきた。変異が転帰に及ぼす影響については議論が続いているが、TEAM Pathology試験の分析結果は、PIK3CA変異が転帰に影響を及ぼすとしても中等度までであることを示した。カナダOntario Institute for Cancer ResearchのJohn Bartlett氏がサンアントニオ乳癌シンンポジウム(SABCS2012)で12月5日に発表した。

 研究グループは乳癌に対するPIK3CA信号伝達経路の関与について総合的に分析しており、今回は主にPIK3CAの変異がホルモン療法を受けた早期乳癌患者の転帰(遠隔再発/乳癌死亡)に及ぼす影響を分析した。

 研究グループは、術後補助療法としてエキセメスタンを5年投与するレジメンと、タモキシフェンを2.5-3年投与した後にエキセメスタンに切り替えるレジメンを比較したTEAM(tamoxifen, exemestane adjuvant multinational)試験のサブスタティであるTEAM pathology試験で収集された腫瘍標本のうち、エストロゲン受容体(ER)陽性標本を選び、ホルマリン固定パラフィン包埋標本からDNAを抽出、Sequenom社のMassArrayを用いて、6つの遺伝子上に存在する計25カ所の変異(PIK3CA上の10カ所、Akt1上の1カ所、KRAS上の5カ所、HRAS上の3カ所、NRAS上の2カ所、BRAF上の4カ所)の有無を調べた。

 PIK3CAの変異の95%はエクソン9(E9)またはエクソン20(E20;キナーゼ領域)に見つかることが知られている。研究者たちが着目したPIK3Aの10カ所の変異を合わせるとPIK3CAのあらゆる変異の98%に相当する。

 PIK3CAの変異は、今回分析対象になったluminalタイプの症例4272人の39.8%に、Akt1の変異は3.2%に、KRASの変異は0.4%に、BRAFの変異は0.2%に認められた。HRASとNRASに変異を持つ標本は見つからなかった。

 PIK3CA変異のうちE9変異陽性は15.1%、E20陽性は20.3%で、その他の部位の変異を保有していた患者は4.1%だった。複数の変異が見つかった患者が0.4%存在した。

 プロゲステロン受容体(PgR)の発現レベル(histoscore)が高いほど、E9とE20の変異陽性率は高くなった。一方で、病気のグレードが高くなるほどこれらの変異の陽性率は低下し、HER2陰性患者のほうが陽性患者より変異の陽性率は高かった

 PIK3CA上に変異が見つかった1702人の患者では、変異が無かった2570人に比べ、5年間の遠隔再発/死亡のリスクが低かった。ハザード比は0.76(0.63-0.91、P=0.003)。E9変異陽性群の遠隔再発/乳癌死亡リスクは、変異なし群に比べ有意に低かった(ハザード比0.71、0.51-0.93)。E20変異陽性群のハザード比は0.88(0.7-1.1)となった。E9変異陽性群とE20変異陽性群の間に有意差は無かった(p=0.24)

 多変量解析の結果は、PIK3CAの変異は、ER受容体陽性でホルモン療法を受けた患者の遠隔再発/乳癌死亡の独立した予測因子ではないことを示した(ハザード比0.92、0.75-1.12、p=0.4012)。一方で、PgR、ERの発現は独立した予測因子だった。