トリプルネガティブ乳癌(TNBC)患者について初めて行われたホールゲノムのシークエンシングから、MAPK経路PI3K/AKT経路がともに活性化されている可能性が示された。この結果は有効な併用療法の裏付けとなるとみられる。12月6日から10日まで米国サンアントニオで開催されているサンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)で、米Baylor Sammons Cancer CenterのJoyce O’Shaughnessy氏が発表した。

 トリプルネガティブの早期乳癌の約30%は術後補助療法施行後に再発し、予後不良である。
 
 O’Shaughnessy氏らは、転移性TNBC(mTNBC)の治療標的となりうる変異を同定するため、フェーズ1/2試験から入手可能な組織について、ホールゲノムとトランスクリプトームのシークエンシングを2010年3月に開始した。今回はその最初の結果が報告された。
 
 Life Technologies SOLiD 4 systemを用いて、生殖細胞のDNAと腫瘍のDNA/RNAの配列を解析し、点変異や挿入欠失、転座などの体細胞の変化を同定した。さらにRNA配列についても、年齢と人種を合わせた正常乳房の対照とともに、発現量解析やアイソフォームの発現の解析などを行った。
 
 得られた知見はゲノム研究者や臨床腫瘍医などの集学的なチームで評価し、各症例について治療選択肢の優先順位が判断される。さらにClinical Laboratory Improvement Amendments(CLIA)が確認し、臨床的にも分子的にも適切な治療が決定される。
 
 これまでにmTNBC患者11人の組織が解析された。癌遺伝子、癌抑制遺伝子で機能喪失変異を認めたのは、TP53、RB1、PTEN、CTNNA1、ERBB4、NF1だった。高レベルの増幅を認めたのは、BRAF、WT1、WHSC1L1、KRAS、ARAFだった。
 
 すべての患者の組織でMAPK経路を活性化する変化がみられたが、患者ごとにメカニズムは異なっていた。メカニズムには、BRAFの増幅と過剰発現、NF1の機能喪失変異、IQGAP3の過剰発現などが含まれた。
 
 また、すべての患者の組織でPI3K/AKT経路を活性化する変異もみられ、そのメカニズムには、PTENの機能喪失変異またはダウンレギュレーション、INPP4Bのダウンレギュレーション、FBXW7の機能喪失変異、ERASの過剰発現などが含まれた。
 
 さらに、ERBB4を変化させ機能喪失につなげる体細胞の遺伝子変異も報告された。
 
 O’Shaughnessy氏はシークエンシングを行った症例について紹介した。1例はフェーズ1試験のアフリカ系アメリカ人の53歳の女性で、術前化学療法のAC療法(ドキソルビシン、シクロホスファミド)とトラスツズマブの併用で病理学的奏効(pCR)が得られたが、18カ月後に同側乳房内と縦隔リンパ節に転移した。シークエンシングにより、RB1、CTNNA1、ERBB4の機能喪失変異があり、PI3K/AKT経路ではNF1、INPP4B、PTENの機能喪失変異が認められた。この患者にはPI3K/mTOR阻害剤のBEZ235が投与され、2カ月間の安定状態が得られた。

 O’Shaughnessy氏らは、得られた知見から治療標的の優先順位を決定し、1つの化学療法に難治性のmTNBCで、高レベルのBRAFの増幅/過剰発現、PTENとINPP4Bのダウンレギュレーションを認める患者を対象とするフェーズ1試験を開始しており、MEK阻害剤とAkt阻害剤の併用で大きな効果を得ている。

 さらに、新たなフェーズ1試験では、MEK阻害剤trametinibとAkt阻害剤GSK2110183の併用により、MAPK経路とPI3K/AKT経路を同時に阻害する有効性が検証される予定であるという。