筋層浸潤性膀胱癌の日本人患者に対して、有効でかつ安全なネオアジュバント化学療法を確立することは重要な課題となっている。その克服へ向けて、MVAC(メソトレキサート+ビンブラスチン+ドキソルビシン+シスプラチン)療法のフェーズ3試験が現在進行中であり、またGC(ゲムシタビン+シスプラチン)療法をこれまでの4週間隔から3週間隔で投与するパイロット研究も開始されている。4月27日から30日まで盛岡市で開催された第98回日本泌尿器科学会総会で、札幌医科大学医学部泌尿器科学講座の北村寛氏が発表した。

 筋層浸潤性膀胱癌に対する治療のゴールドスタンダードは、根治的膀胱摘除術である。本手術後のpT2N0とpT3N0症例の全生存率には大きな開きがあり、この溝を埋めるための何らかの工夫が必要と考えられている。

 しかし、実際には全身化学療法+膀胱全摘術と膀胱全摘術を比較した試験は少ない。北村氏は、ネオアジュバント療法の生存に関するエビデンスとして用いられることが多い2つの試験を紹介した。

 1つは2003年に「New England Journal of Medicine」誌に紹介されたSWOG8710試験で、T2〜T4aN0M0膀胱癌に対する術前3コースのMVAC療法が有意に予後を改善するという結果であった。

 もうひとつは最初に2003年に「Lancet」誌に紹介されたメタアナリシスで、白金系抗癌剤ベースのネオアジュバント化学療法が予後の改善に寄与するという結果が示された。5年生存率で5%のベネフィットが得られ、レベルIのエビデンスとして広く認知されるようになった。さらに2005年には、SWOG8710試験を含めたメタアナリシスの結果がEuropean Journal of Urology」誌に掲載された。

 北村氏は膀胱癌のネオアジュバント化学療法に関する問題として、メタアナリシスで検討された臨床研究の化学療法や局所療法が様々であること、ネオアジュバント化学療法の有用性を示した試験が少数であること、膀胱全摘術のクオリティコントロールに疑問が残ること、欧米の試験結果は外挿可能であるかは不明であること、などを挙げた。

 これらの点から、現在進行中の浸潤性膀胱移行上皮癌(T2〜4N0M0)に対する術前MVAC化学療法による予後改善の意義に関するフェーズ3試験JCOG0209の結果が期待される。この試験では、根治的膀胱摘除術のみを行う群と、ネオアジュバント化学療法としてMVACを2コース行い、同化学療法終了後4週以内に根治的膀胱摘除術を行う群のOS、PFS、手術合併症の発症割合などを比較する。すでに2009年3月に症例登録が完了し、数年後に解析結果が公表される予定である。

 局所進行性および転移性の膀胱癌に対しては、GC療法がMVAC療法と同等の全生存期間(OS)および無増悪生存期間(PFS)を示し、しかも毒性は軽度であったことが、2005年の「Journal of Clinical Oncology」誌で発表された。この結果を受け、わが国においても、尿路上皮癌に対する全身化学療法の標準レジメンはMVACからGCにシフトしつつある。

 2008年には、pT0がもたらされる可能性は、3週間隔でGCを4コース投与した場合は26%、4週間隔でMVACを4コース投与した場合は28%で、ほぼ同等であることが報告された。

 しかし、この報告はレトロスペクティブ研究であり、プロスペクティブな研究はほとんど行われていない。さらにGCの至適サイクル数などに関して確立したプロトコールはないのが現状だ。

 北村氏らは同大で今年1月からT3の筋層浸潤性膀胱癌患者を対象として、GCを用いたネオアジュバント化学療法を開始している。3週間隔の投与スケジュールを採用し、シスプラチン70mg/m2をday1、ゲムシタビン1000mg/m2をday1、day8に投与し、2コース実施した後に根治的膀胱摘除術を施行する。

 開始からの期間が短いため、症例数はまだ3例であるが、うち1例は術後にpT0となった。2008年の報告に相当する割合と考えられる。グレード3以上の血小板減少および好中球減少が2例に認められたものの、手術に支障を来したケースはないという。

 北村氏は「3週間隔のGCの投与はまだパイロット研究の段階だが、有効性とともに、化学療法のベネフィットを受けない患者さんの負担軽減につながる可能性がある。化学療法の感受性を予測するシステムの開発も必要で、東大医科学研究所と岩手医科大学の研究成果が期待される」と話している。