下腹部に手術既往がある症例に対する腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術LRP)の実施は可能であり、また下腹部骨盤内手術や鼠径ヘルニア手術の既往がある症例では手術時間が延長し、痔や痔瘻などの手術後で直腸周囲に炎症の既往がある場合はLRP後の断端陽性率が高いことが分かった。成果は、新都市クリニックからだに優しい手術センター泌尿器科の鶴信雄氏が、4月27日から30日まで盛岡市で開催される第98回日本泌尿器科学会総会で発表した。

 鶴氏らは、下腹部の手術既往がある前立腺癌患者において、LRPが可能であるかどうかを検討。同時に、下腹部の手術既往がLRP手術成績に及ぼす影響についても検討した。

 対象は、2006年7月から2009年8月までに同院でLRPを行った限局性前立癌患者121人(平均年齢64.8歳)。

 これらの患者を以下の4群に分類した。グループ1は下腹部の手術既往がない69人。グループ2は虫垂切除を受けた34人。グループ3は下腹部〜骨盤内手術を受けた4人と鼠径ヘルニアの手術を受けた9人。グループ4は痔の手術を受けた5人。

 平均術前(治療前)PSA値は9.87であった。臨床T分類はT1が102人と最も多かった。Gleason scoreは6以下が42人、7が55人、8以上が24人だった。

 手術は全例、後腹膜アプローチで行った。手術不能だったグループ3の鼠径ヘルニアの1人を除く120人の平均手術時間は、241分だった。皮切から前立腺完全遊離までの全摘時間は126分、吻合時間は41分、全例ではないがリンパ節郭清を行った場合に要した時間は16分だった。なお、手術不能だった鼠径ヘルニアの症例は、両側にメッシュプラグが入った例だった。

 皮切から閉創までの手術時間は、手術既往がない群に比べ、下腹部の手術既往がある群では有意に延長していた(p<0.05)。全摘時間は下腹部の手術既往がある群で有意に延長した(p<0.01)が、吻合時間には有意差はみられなかった。下腹部骨盤内手術や鼠径ヘルニア手術の既往がある症例では、手術時間、特に全摘時間が延長していた。

 LRP後に断端陽性を認めたのは120人中6人(5%)で、痔や痔瘻などの手術後で直腸周囲の炎症の既往があるグループ4で2人(40%)と特に高かった。

 また、PSA再発を認めたのは120人中13人(10.8%)で、グループ別ではグループ1で3人(4.3%)、グループ2で6人(17.6%)、グループ3で3人(25%)、グループ4で1人(20%)だった。グループ4の症例は再発していないが、断端陽性であったことから術直後からLHRHを使用し、PSA再発例に加えている。直腸周囲炎症の既往がPSA再発にも影響する可能性も考えられるが、今後の検討が必要である。

 鶴氏は「直腸周囲に炎症の既往がある場合は、剥離が難しい場合があり、細心の注意が必要」などと指摘した。