会長を務める岩手医科大学泌尿器科教授の藤岡知昭氏

 第98回日本泌尿器科学会総会が4月27日から30日までの4日間、盛岡市内で開催される。大きく変わりつつある泌尿器癌治療の最前線の研究結果が報告される。会長を務める藤岡知昭氏(写真)にトレンドをうかがった。

―― 泌尿器科分野における最近の癌のトピックスは何ですか。

藤岡 癌特異的ペプチドワクチンの登場により、泌尿器科領域の癌治療の流れが大きく変わる可能性があると考えています。なぜなら、癌特異的ペプチドワクチン療法は、比較的短時間に新薬として開発することが可能であり、患者さんそれぞれの遺伝子発現に基づくオーダーメイド医療の門戸を開く手段であると考えるからです。

 私どもと東京大学医科学研究所教授の中村祐輔氏との共同研究により、膀胱癌を始め各種泌尿器癌で高発現している遺伝子発現解析の結果に基づきHLA拘束性のペプチドワクチンを開発、その臨床研究を開始しています。膀胱癌と前立腺癌ワクチンはHLA-A2402拘束性、腎癌ワクチンはHLA-A0201および0206拘束性です。日本人のHLA-A領域の頻度は、A-2402が60.8%、A0201が19.1%、0206が15.6%です。したがって、ペプチドワクチン療法の適応は、HLA-Aタイピングが必須で、その結果の制約を受けることになります。

 膀胱癌ワクチンの臨床研究では、腫瘍組織を免疫染色することでそれぞれの患者さんごとに遺伝子の発現を確認し、投与するペプチドを選択していましたが、腎癌と前立腺癌では、ほとんどの症例で発現しているそれぞれ1種遺伝子由来のペプチドを使用しています。

 これら癌ワクチン療法により、まず患者さんの末梢血内に免疫能・細胞障害性活性が的確に誘導されることが確認されました。さらに、膀胱癌患者さんで、画像診断による抗腫瘍効果が、また、腎癌および前立腺癌患者さんにおいては、生存期間の有意な延長を示唆する結果が得られています。前立腺癌ペプチドワクチン療法の臨床研究は、ホルモン不応性再燃癌患者さんでドセタキセル化学療法が無効または有害事象により継続できない症例を対象にしています。この途中経過は、学会2日目のパネルディスカッション3「再燃性前立腺癌の治療戦略」で私どもの教室から発表します。

―― 他の癌種でもワクチンがかなり注目を浴びているようですね。

藤岡 海外では、肺癌、乳癌、前立腺および腎癌などに対する癌ワクチンの治験が進行中です。本邦では、泌尿器癌に加え消化器癌、婦人科癌、肺癌、消化器癌等を対象とした全国的な臨床研究グループが、中村教授を中心としたCaptivation Net-workとして構築され、今年1月までに800例を超える症例が集積されています。一方、久留米大学にはペプチドワクチン外来が開設されています。興味深いことに、ペプチドワクチンに反応性を持つ可能性の高い患者さんは、その反応性が低いと診断された人の場合より有意に長い生存期間であることより、適応患者さんの選択がこの治療法の重要なポイントとなります。

―― 術後補助療法としてのワクチンの利用も進んでいます。

藤岡 表在性膀胱癌の経尿道的腫瘍切除術後の再発予防を目的とした、ワクチン術後補助療法の多施設共同臨床研究が進行中です。目標症例数は約120例ですが、本年4月の時点で登録がほぼ終了しました。この研究では、再発の低リスクの患者さんを除いた症例を対象としています。途中経過の印象では、十分満足が得られる結果となるものと期待しています。この研究に関しても、本学会4日目のシンポジウウム11「筋層非浸潤性膀胱癌の治療」で私どもの教室から紹介します。

―― ワクチンは今回の学会のキーワードと深く関わっていますね。

藤岡 そうです。本総会のテーマを「イーハトーブ・理想の医療をもとめて:病気と闘う希望の提供」としまして、そのキーワードを設定しました。1つは基礎研究としてのゲノム医学・遺伝子発現解析、次にこの橋渡しとなるトランスレーショナル研究、最後に実臨床としての個別化医療・オーダーメイド医療です。基調講演は勿論、招聘講演、教育講演を始め各企画の随所において、私どもの意図した狙いを理解していただけると思います。これらキーワードには、泌尿器科癌克服に向けての突破口を見い出し、患者さんや家族の皆さんに将来の希望を提供できるようにという私どもの願いがこもっています。