癌医療では、癌で否定的に変化した将来の見通しを共有し、もう一度希望を取り戻す心のケアが重要であり、医師のコミュニケーション技術は患者の心に大きく影響する。4月16〜19日に岡山市で開催された第97回日本泌尿器科学会総会の指導医教育企画として、国立癌センター東病院臨床開発センター精神腫瘍学開発部の内富庸介氏が「癌患者の心理的反応に配慮した癌診療」と題し、講演を行った。

 精神腫瘍学は、癌と心の関係を自然科学的・社会科学的なあらゆる手法を用いて学際的に探求していく学問領域で、1970年代から欧米で癌の告知がされるようになったことに伴い、研究が活発に展開されるようになった。

 癌の告知を受けた患者は直後の衝撃から、否認、絶望、怒りを経て、数日で回復期に入るが、常に悲嘆・落胆・うつ、不安、食欲低下・不眠などで揺れ続ける。癌のような悪い知らせは患者の将来への見通しを根底から否定的に変えてしまう。「多くの患者さんは人生のさまざまな課題を乗り越えてきた矢先に癌を経験する。一緒に見通しを共有し、もう一度希望を取り戻す心のケアは重要」と内富氏は話した。

 心のケアを行う上で重要なコミュニケーションの大半は、視覚と聴覚からの情報に依存する。声の調子、表情、姿勢、身振りなどが主で、言葉を並べるだけでは情報の重要性や深刻さは決して患者には伝わらない。医師のコミュニケーション技術は、癌患者の精神的苦痛や医療に対する満足感、癌患者からの重要な情報の開示などに大きく影響する。

 基本的なコミュニケーション技術には、身だしなみや座る位置への配慮、目や顔を見る、相槌を打つなどに加え、質問のスキルや共感するスキルが必要だ。共感を示すには十分な沈黙(5〜10秒)も重要だが、「沈黙はつらい」と感じる医師も少なくない。

 さらに癌医療のコミュニケーションには、難治性の癌、再発、積極的な治療の中止といった「悪い知らせを伝える」ことも含まれる。癌に関する悪い知らせを伝えるコミュニケーションにおける患者の希望を分析すると、(1)悪い知らせの伝え方、(2)安心感と情緒的サポート、(3)付加的な情報、(4)支持的な場の設定――の4つの要素から成り立つ。

 この4つの要素を実際の面談の場面に当てはめて時系列にすると、起承転結となる。「起」で面談までの準備を行い、実際に面談を開始し、「承」で悪い知らせを伝え、「転」で治療を含めた今後について話し合い、「結」で面談のまとめを行う。このような癌医療におけるコミュニケーションについて、ロールプレイを含む緩和ケア研修会が現在全国の癌拠点病院を中心に行われている。

 癌医療におけるコミュニケーションには精神疾患への対応も含まれる。うつ病は癌患者の4〜7%、適応障害は5〜35%にみられる。うつが持続すると自殺につながり、癌患者の自殺率は国内では0.2%で、診断後早期に多い。

 患者からうつを訴えることは少なく、医師や看護師の評価とは一致しにくいため、スクリーニングの実施が望ましいが、スクリーニングで陽性でも精神科受診につながるのは4人に1人程度。多くの患者は「気持ちより体の治療を優先したい」と訴える。このような場合、患者の言葉に耳を傾け、批判や価値判断をせず受容的に接することが基本となる。つらさを受け入れ、理解しようとする準備があることを伝え、そのうえで気持ちのつらさを専門に診ている医師への受診を勧める。患者が受診を拒否した場合は意見を尊重したうえで理由を把握し、いつでも受診できることを伝え、機会を改めて再度勧めていく。

 英国や米国では癌患者に精神的苦痛のスクリーニングを行い、状況に応じて専門医に紹介することを推奨している。癌患者のうつに対する抗うつ薬は無作為化比較試験で有効、カウンセリングもメタアナリシスでほぼ有効という結果が得られており、治療アルゴリズムも提唱されている。

 国立癌センター東病院は、心のケアを含む緩和ケアを病院の外にも広げるため、診療所、訪問看護、訪問介護、ボランティア、行政などとともに地域癌緩和ケア連携システムを展開している。内富氏は「ぜひコミュニケーションスキルトレーニングでロールプレイを経験し、緩和ケアチームに参加していただきたい」と呼びかけた。