転移性腎細胞癌の治療としてソラフェニブは二次治療、スニチニブはgood riskまたはintermediate riskの一次治療、テムシロリムスはpoor riskの一次治療、そしてTKI不応例にはエベロリムスが推奨される。4月16〜19日に岡山市で開催された第97回日本泌尿器科学会総会の日本泌尿器科学会(JUA)アップデートセッションのパネルディスカッションで、慶應義塾大学医学部泌尿器科学の大家基嗣氏が腎細胞癌の分子標的治療について解説した。

 この1年間の変化として、ソラフェニブとスニチニブが承認され、mammalian target of rapamycin(mTOR)阻害薬のテムシロリムスとエベロリムスの臨床試験がほぼ終了し申請に移行したことが挙げられる。また、ソラフェニブとスニチニでは、これまで無増悪生存期間(PFS)のデータをベースとしていたが、この1年で全生存期間(OS)の結果が得られている。エベロリムスの結果も出てきている。

 淡明型腎細胞癌では、von Hippel-Lindau(VHL)蛋白が不活化すると低酸素誘導性転写因子(HIF)の恒常的活性化が生じ、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)が誘導される。腎細胞癌に対する分子標的薬はこのVEGFを標的とする。ソラフェニブとスニチニブはVEGFR-2の受容体のリン酸化部位を阻害するチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。

 サイトカイン抵抗性の腎細胞癌の二次治療として行われたソラフェニブのTARGET試験では、ソラフェニブ400mgの1日2回投与群451人とプラセボ投与群452人でOSとPFSなどを比較した。OS中央値はソラフェニブ投与群17.8カ月、プラセボ投与群15.2カ月であった。プラセボ投与群の48%がソラフェニブにクロスオーバーしたため、両群の曲線は徐々に重複している。

 一次治療として、スニチニブ50mg/日を4週投与、2週休薬する群375人と、インターフェロン(IFN)-αの900万単位を週3回皮下注する群375人を比較する第3相比較試験では、PFS中央値はスニチニブ11カ月、IFN-αは5カ月であった。OS中央値はスニチニブ投与群26.4カ月、IFN-α21.8カ月で、4.6カ月の延長が認められた。さらに、スニチニブの投与を受けた患者とIFN-αの投与を受け、試験終了後は無治療だった患者のOS中央値は、それぞれ28.1カ月と14.1カ月で、さらに差は広がった。

 一方のmTOR阻害薬は、放線菌由来の免疫抑制剤。mTORは細胞質において細胞のシグナル伝達系の中心に存在するたんぱく質である。mTORの上流にはAktと呼ばれるたんぱく質があり、さらにその上流には酵素のPI3Kが存在する。Aktはさまざまな癌で活性化される。腎細胞癌でも活性化され、Aktの活性化の割合が高いと予後不良となる。

 転移性腎細胞癌のうち予後不良の患者を対象にした第3相比較試験では、IFNを1800万単位まで増量し、週3回投与する群207人、テムシロリムス25mgを週1回静注する群209人、テムシロリムス15mgを週1回とIFNの600万単位を週3回投与する併用群210人で、生存率を比較した。テムシロリムス投与群がIFN投与群に比べて優位にOSを延長したが、併用療法の優位性はなかった。mTOR阻害剤の副作用は比較的少ないが、間質性肺炎や高血糖に注意する必要がある。

 TKI不応の患者362人について、エベロリムスと緩和維持療法(BSC)とエベロリムスまたはプラセボを併用する群に2:1に無作為化した試験では、エベロリムス投与群はプラセボ投与群に比べて顕著にPFSが延長した。mTOR阻害薬はスニチニブのような明確な腫瘍縮小効果はないが、この試験では同効果もある程度示された。副作用として間質性肺炎、リンパ球減少などが観察されている。

 大家氏は、腎細胞癌に対する分子標的薬の展望について、「疾患特異的分子標的薬ではないため、より効果が高い、あるいは副作用の少ない薬に置き換わっていく可能性がある。肺転移巣のみであれば、日本人の予後は良好なため、完全奏効(CR)を狙って免疫治療から始める考えもあるが、肝臓や膵臓などの実質臓器の腫瘍縮小効果は分子標的薬による。また分子標的薬とIFNの併用療法の可能性も模索されている」と話した。