第97回日本泌尿器科学会総会が4月16日から18日までの3日間、岡山市で開催される。分子標的薬の登場、ドセタキセルの前立腺癌への適応拡大、GC療法の登場などで、大きく変わる泌尿器科領域の癌治療の最新動向が報告される。集会の会長を務める公文裕巳氏に話をうかがった。



――今、泌尿器科の分野はどのように変わりつつあるのでしょうか。

公文 泌尿器科は、「長寿日本」ということで、役割が大きく広がっています。まず癌について取り上げると、前立腺癌をはじめとする癌が増加しているということがいえます。前立腺癌は、高齢癌、長寿癌としての典型です。固形癌の中では、ホルモン治療など、比較的効果のある治療法があるのですが、ホルモンが効かなくなったら治らないという問題があります。また、固形癌の中で最も化学療法に反応しない癌の1つが腎臓癌です。この癌には分子標的薬が有効であることが検証され、他の癌種へと広がりつつあります。その他、早期診断も含めて、泌尿器科は、新しい時代の癌への対処法の1つのモデルを作り上げている臨床領域だと思っています。
 
 癌以外には高齢者の排尿の問題があります。今まで排尿のことは、前立腺肥大症などほとんど男性の問題だと思われていました。しかし、近年、高齢化に伴い、過活動膀胱という新しい疾患概念が出てきています。患者数810万人と推定されているこの過活動膀胱に代表される下部尿路症状の問題は、これからさらに大きな問題になります。

 この他に下部尿路症状で最近注目されるべきは、女性の骨盤臓器脱です。膀胱の場合には膀胱脱とはいわないで、最近は膀胱瘤といいます。子宮は子宮脱になります。直腸瘤もあります。つまり、骨盤内の臓器が加齢その他に伴って膣から脱出してくるという現象です。これらの病気はおそらく昔からあったのでしょう。しかし、あまり女性の方は病状を訴えなかったのだと思います。骨盤臓器脱のことが少しずつ広報されてきたこともあり、高齢化と同時に問題になっている人数も増えています。

 要するに、今まで泌尿器科はどちらかというと男性専科だったのですが、人生80年という時代ではカップルを総合的に支援する科に変わってきているのです。男性の排尿障害や勃起障害だけを考える臨床科ではなく人生80年時代のQOLを支援する総合臨床科に変貌しているということを広く国民に伝えたいと思っています。今回の泌尿器科学会での市民公開講座では、「さわやかシニアの泌尿器科的アンチエージング」ということを扱っています。排尿のことやカップルの問題を中心に、シニアライフをさわやかに充実させるアンチエージング法について、専門家の方々と一緒に考えてみたいと考えています。

――これからの泌尿器科はどうなるのでしょうか。

公文 内科とか外科は呼吸器科、循環器科、消化器科というようにどんどん専門領域に細分化されていきました。しかし、泌尿器科はそうではなくて、分化されているいろいろな領域を一つのものとしてカバーするようになってきています。男性専科だけではなくて、カップルを支援しようとしていること、あるいは「長寿日本」における高齢者排泄支援といった具合にです。泌尿器科は総合臨床科になっていくと考えています。

 では、具体的にどうすればそうできるのか。医者が1人で何かしようと思ってもできない。医療はチームで行うものだからです。コメディカルと医療チームを作りながら、そのチームの中でどのように解決していくかという時代なのです。

 そこで今回の泌尿器科学会では、「チーム医療をどうするのか」ということを考えます。それとともに、医学生に泌尿器科の魅力を考えてもらうために、「キャリアパス」の問題を取り上げます。

 1つは、若手の医師がどういうキャリアパスを踏んでいくのかというキャリアパス。チーム医療を考えたときに、泌尿器科のチームメンバーのキャリアパス。もう1つの重要な視点として、女性泌尿器科の役割とキャリアパスです。女性のキャリアパスには妊娠・出産の問題が入ってきます。様々な問題をクリアしながら、どうキャリアパスを組み立てるかということが、今回の1つのテーマになっています。

――今回の総会では、いわゆる専門領域を九つに分類しました。

公文  「JUAアップデートセッション」として、ミニレクチャーに加えて、必要な領域についてはパネルディスカッションを組んでセットにする。そういう方法で九つの専門家領域を組みました。基本的に総会は、自分の専門領域でないところを聞きましょうということです。泌尿器科学会総会以外に、排尿機能学会や、日本Endourology・ESWL学会、日本性機能学会のように分科会が充実しています。今までの学会は、同じグループの人が総会に来て、同じグループの人たちがディスカッションを繰り返すことが多い。それはやめようということです。つまり個々の専門家領域のことについては、個々の専門家領域の学会でやって欲しい。分科会のある泌尿器科学会の果たすべき役割は、その領域の確かな進歩をgeneral urologistに提供することです。つまり、他の分野の専門家に情報を発信するということを中心に据えました。

――癌の話題はどうでしょうか。

公文 一番はやはり前立腺癌のPSA検診です。平成19年9月に厚労省がん研究助成金による研究班の報告で、現状の前立腺癌のスクリーニングの仕方は対策型検診として妥当ではないという見解が出されました。それに対して、日本泌尿器科学会として平成20年4月に「前立腺がん検診ガイドライン」を刊行しました。

 問題は、生存率を向上させるかどうか確かなエビデンスはないにもかかわらず、過剰診療と副作用を引き起こす可能性が高いという一方的な主張に立脚していることです。既に、米国では、前立腺癌の死亡率が減っています。また、日本の前立腺癌患者において進行癌の減少が顕著となってきています。
 
 極めて良いタイミングで、PSAスクリーニングの効果について、相反する2つの試験結果が3月に公表されました。日本泌尿器科学会は、欧州と米国の2つの結果の異なった無作為化試験(RCT)の結果について、欧州の試験結果が重要であると判断し、PSAを用いた前立腺癌スクリーニングの重要性を国民、医療サービス関係者、一般医に対して引き続き啓発していくとする見解をまとめました。

 問題となった2つのRCTは、New England Journal of Medicine誌の同じ号(3月26日号)に掲載されたものです。1件は欧州8カ国で行われたERSPCの試験で、PSA検診が前立腺癌死亡率を20%減らすという結果が示された。もう1件は米国で行われたPLCOの試験で、PSA検診は前立腺癌死亡率を減らさないというものでした。

 しかし、米国でPSA検査が広く普及し、前立腺癌による死亡が減少している現状を考えると、PLCO研究は、コントロール群のコンタミネーションの問題が大きすぎて、RCT研究として既に破綻しており、科学的に価値のない研究になっているのです。一方、ERSPCの研究結果は科学的な見地から優れており、世界の前立腺癌研究で最も重要なエビデンスです。RCTの開始後、中央値9年間の観察で、intention-to-screen解析で、20%の有意な死亡率減少が証明されました。前立腺癌死亡数の増加傾向に歯止めのかからないわが国の現状を鑑みて、PSA検診は重要であるのは間違いないのです。特別講演1で、今回の問題となった2論文について科学的な検証を行います。

 そして癌の領域に、分子標的薬が出てきました。癌については2種あります。分子標的薬は、新しい医療を創造すると思いますが、副作用があります。肺癌の分子標的薬ゲフィチニブでは、副作用に民族差が出ました。腎癌の分子標的薬についても、ずいぶん副作用の種類、出方が日本人では違います。それがこれからの一番の問題です。

 他の治療薬もそうですが、かなり個人差、民族差というのがはっきりしてきました。テーラーメイド戦略の組み立て方が非常に大きな問題です。今回は、分子標的薬のソラフェニブとスニチニブの二つの薬剤を総会で扱います。抗癌剤領域という意味では、分子標的薬以外に前立腺癌に対する抗癌剤、膀胱癌に対する抗癌剤というのが加わりました。多くの癌関連の話題がいろいろなところで取り上げられます。たとえば40件の教育セミナーがあり、そこでも癌の話題が多く取り上げられます。