転移性乳癌に対するトラスツズマブ投与と脳転移の検討から、トラスツズマブ投与例では非投与例と比べて、脳転移出現までの期間および脳転移出現後の生存期間中央値(MST)が延長したことがわかった。4月12日から14日まで千葉市で開催された第112回日本外科学会定期学術集会で、東北大学腫瘍外科の濱中洋平氏が発表した。

 転移性乳癌に対するトラスツズマブ投与では、効果が得られていてもしばしば脳転移が出現する。乳癌脳転移の臨床像の理解、その発見と治療は重要な課題である。
 
 濱中氏らは、トラスツズマブ投与例と非投与例の乳癌脳転移の病態像について、診療記録を基にレトロスペクティブに検討した。
 
 対象は、2001年6月から2011年5月までに同科において発見された乳癌脳転移症例またはトラスツズマブを投与した乳癌転移再発症例100人(年齢中央値54歳、全例女性)。
 
 トラスツズマブ非投与で脳転移が出現したのは45人(再発時年齢中央値51歳)、トラスツズマブ投与で脳転移が出現したのは14人(同49歳)、トラスツズマブ投与で脳転移が出現しなかったのは41人(55歳)だった。脳転移が出現した症例では肺転移を高率に合併していた。
 
 脳転移症例において、初発転移から脳転移出現までの期間の平均値はトラスツズマブ非投与例で20.9カ月、トラスツズマブ投与例では30.0カ月で、有意差がみられた(p<0.001)。

 脳転移出現時の他転移部位の病勢コントロール率(完全奏効+部分奏効+安定)は、トラスツズマブ非投与例の20%に対し、トラスツズマブ投与例では57%だった。トラスツズマブの投与により他転移部位の病勢がコントロールされているにも関わらず、脳転移が出現したことが示された。
 
 脳転移症例の治療として、全脳照射、γナイフ、全脳照射とγナイフの併用などが行われた。脳転移出現後のMSTは、トラスツズマブ非投与例で10カ月だったのに対し、トラスツズマブ投与例では31カ月で、有意に投与例で延長した(p=0.02)。
 
 さらに、トラスツズマブ非投与でトリプルネガティブの症例(14人)とトラスツズマブ投与例(14人)のMSTを比較すると、それぞれ11カ月と31カ月でトリプルネガティブの症例で短い結果だった(p=0.01)。しかし、トラスツズマブ非投与例においてトリプルネガティブの症例(14人)と非トリプルネガティブの症例(31人)のMSTを比較すると、それぞれ11カ月と10カ月で有意差はなかった(p=0.43)。
 
 またトラスツズマブ非投与例において、脳転移がスクリーニングで発見された症例(4人)と有症状(頭痛や嘔吐など)で発見された症例(38人)のMSTは、それぞれ32カ月と9カ月となった(p=0.02)。一方、トラスツズマブ投与例では、スクリーニングで発見された症例(4人)は28カ月、有症状で発見された症例(9人)は41カ月で有意差はなかった(p=0.44)。
 
 乳癌脳転移出現率は、乳癌転移再発例よりもトラスツズマブ投与例で高いと報告されている。その理由として、トラスツズマブの延命効果により、同薬の移行不良部位である脳での見かけ上の転移発症頻度が増加すること、またHER2陽性乳癌に脳転移が多いことがあげられている。脳転移に対する放射線照射による血液脳関門の破綻により、トラスツズマブの脳への移行が改善するとの報告もある。
 
 濱中氏は「脳転移出現後もトラスツズマブを継続投与し、脳転移以外の転移部位の病勢を抑制することで生存期間の延長が見込めることが示唆された。特に脳転移を高率に合併する肺転移症例では定期的な脳のスクリーニングが望まれる」と話した。