ERAS(enhanced recovery after surgery)プロトコルに基づく肝切除症例の周術期管理の検討から、忍容性が確認され、術後日数(手術日から退院許可まで)が短縮することから早期回復に寄与する可能性が示唆された。4月12日から14日まで千葉市で開催された第112回日本外科学会定期学術集会で、国立病院機構大阪医療センター外科の宮本敦史氏が発表した。

 ERASプロトコルとは、欧州静脈経腸栄養学会(EPSEN)が発表した結腸手術に関する包括的周術期管理プログラムで、エビデンスに基づいた周術期のさまざまな管理方法を集学的に実施し、術後の回復力を高める取り組みである。肝切除にも有効との報告がある。

 宮本氏らは肝切除症例において、ERASプロトコルで示された管理方法を段階的に導入し、パスを改訂してきた。具体例を示すと、旧来のパスでは手術前日の夕方から術後1日目まで絶飲食(術後1日目は飲水のみ可)だったが、現在は手術前日の夕方と手術当日の朝は経口補液食、術後1日目の朝からは食事を摂取することとし、絶食期間を短縮している。腸管前処置は、現在では下剤、浣腸ともに中止され、ドレーン抜去は旧来のパスの術後5〜7日目から術後1日目となった。

 今回の検討の対象は、2011年6月までに行われた肝切除症例のうち、胆道再建および他臓器合併切除を施行した症例を除く249人。

 周術期管理に関する介入を行った時期により4つの期間に分類し、各期間における術後合併症発生率と術後日数を比較検討した。旧来のパスで管理した0期は85人、ドレーン早期抜去を導入(2008年1月)したI期は73人、加えて術前経口補液食の導入を追加(2009年3月)したII期は38人、さらに術前腸管前処置を廃止し、術後1日目からの経口摂取を開始(2010年4月)したIII期は53人となった。
 
 EPSENのガイドラインで推奨されている炭水化物の術前経口補液食は、日本に製品化されたものがないため、宮本氏らは、麻酔導入時の影響を考慮して胃内から2時間以内に排出されるよう、食物線維やアミノ酸の含有量が少ない市販のジュースを代用している。

 術前経口補液食導入前後のI期とII期の比較では、術後合併症の発生率は、I期が18人(24.7%)、II期が8人(21.0人)で有意差はなかった(p=0.67)。術後日数の中央値にも差はなく、それぞれ10日と8日だった(p=0.15)。

 術後合併症の内訳をみると、腹水はそれぞれ7人と4人、手術部位感染(SSI)は3人と2人、胆汁漏は3人と1人、発熱は3人と1人だった。I期にみられた出血やイレウスはII期では発生せず、術前経口補液食の導入により増加したものはなかった。
 
 また0期とIII期の比較では、術後合併症の発生率は、0期が26人(30.1%)、III期が8人(15.1%)で、III期で有意に少なかった(p=0.03)。術後日数の中央値は、0期が11日、III期が9日で、III期で有意に短縮していた(p<0.01)。

 術後合併症の内訳をみると、腹水はそれぞれ10人と3人、SSIは5人と3人、胆汁漏は4人と2人だった。0期にみられた発熱、イレウス、経口摂取不良はIII期では発生しなかった。
 
 宮本氏は「ERASプロトコルに基づく周術期管理を実施した症例で合併症が増加することはなく、術後日数は短縮された。これらが介入によるものか否かはさらに検討が必要であるが、少なくとも悪影響は与えていないと考えられる」と話した。