第112回日本外科学会定期学術集会が、4月12日から14日、千葉県幕張市で開催される。会頭を務める千葉大学大学院医学研究院臓器制御外科学教授の宮崎勝氏に、今回の学術集会開催にあたっての考えをうかがった。


──今回の定期学術集会のテーマとして、「New Perspective for Academic Surgical Excellence」とされました。このテーマに込められた先生のお考えをお聞かせください。

宮崎 現在の日本では、外科医が不足していると叫ばれています。外科医を元気づけたい、若い外科医を多く育てていきたいという思いがあり、そのためには私たち指導的立場にいるものも元気でなければなりません。定期学術集会では、外科医のあるべき姿について、私自身の考えを披露し、皆で議論したいと考えています。

 私は、医学部を卒業し、外科医としての一歩を踏み出すときに、自ら描いた外科医としての理想像に近づくよう研鑽を積んできました。この理想像とは“Academic Surgeon”です。卒業するとき、先輩からこの言葉を聞き、その考えに感動し、外科医としての生きる姿勢を教えてもらいました。

 この“Academic Surgeon”とは、1939年に亡くなった米国の脳神経外科医であるCushingの残した言葉です。
1. He must be a researcher
2. He must be able to inoculate others with a spirit for research
3. He must be a tried (reliable) teacher
4. He must be a capable administrator of his large staff and development
5. He must, of course, be a good operating surgeon
6. He must be co-operative
7. He must have high ideals, social standing and an agreeable wife. He must have high ideals, social standing and an agreeable wife

 この“Academic Surgeon”を現在にあてはめてみると、7つの項目は普遍的で、今でも変わらない大切なことです。この“Academic Surgeon”という考え方を多くの医師に伝えたいと思っています。

 ただ、最近、改めて考えてみると、さらに2つ付け加える必要があるなと思っています。1つは“グローバル化”、もう1つは“医局”の見直しで、これらを意味することが、現在の外科医にとって重要だと思うのです。

──外科医がグローバル化するとはどういうことでしょうか?

宮崎 外科学とは、手術手技によって治療を行うことです。外科医はこの手技を追求していく必要があります。そして手技は、人種に違いがあっても、医療制度に違いがあっても共通して議論できるものです。世界中の外科医と同じ土俵に立って、技を競い合い、高め合っていくことが大切だと思うのです。他の外科医、あるいはチームの手技を見ていると、自分の弱いところ、チームの弱いところが見えてくるようになります。世界の最先端にいなければ、次に改良、工夫すべきポイントが見えてきませんから。

 幸いなことに、手技は言葉が堪能でなくても見ていれば分かります。外科医は世界の舞台に立ち、技術を競い、高めあいやすい領域なのです。最近ではそうでもなくなりましたが、以前は他の教室の手術を見る機会は非常に少なく、自分の手技で間違っていること、非効率なことがあっても気がつきにくい状況でした。世界に飛び出て学び磨いた手技を、目の前にいる患者に用い、最善の治療を提供できるように努力することが大切です。

──“医局”の見直しとはどういうことでしょうか。

宮崎 これは、医局という組織の重要性を改めて認識して欲しいということです。ただ、多くの方がイメージする昔ながらの医局ではなく、他に機能を代替できるものがないから、医局と言っているわけですが。

 初期研修制度によって、市中病院などで研修を受けるケースが増えてきています。もちろん大学病院以外で研修を受けることを否定するものではありません。しかし、一人前の外科医に成長するためには、教え導く存在も必要でしょう。若い外科医のキャリアデザインをサポートする人間がいて、必要な若手医師にアドバイスできる体制は大切です。現時点でその役割を十分に果たすことができるのは、教育が業の1つである大学の医局だと考えています。

 グローバルに競争して手技を磨き、ローカルでは親身に相談に乗ってもらえる体制がある。こうした状況を作ることで、優れた、尊敬される外科医が育っていくし、若手も集まってくれるのではないか。そう考えています。

──癌治療に関して、先生が最近感じておられることをお聞かせください。

宮崎 私が普段診療しているのは、消化器癌、とくに肝胆膵領域の癌です。この領域の癌は難治性であることが多く、難しい癌です。

 ただ、唯一、根治しうる可能性があるのが外科手術です。そして、患者の外科切除に対する期待は高いでしょう。しかし、最近、外科医が“切除不能”と判断するのが早すぎるのではないかと感じています。

 もっと手技を進歩させていくよう努力していく必要があります。もちろん手技だけでは限界がありますが、化学療法などの進歩は著しく、例えば、術前化学療法の試みなど、学問を融合させ、外科切除の適応を拡大する試みを続けていかなければなりません。

 最近、癌診療は集学的治療、つまり多くの科にまたがり、また多くの医療専門職の協力のもとで行うことが求められていますが、研究や治療法の追求についても同じです。“集学的研究”を進めていくことが重要だと思っています。

 一方で、難易度の高い手術にはリスクが伴うことを、国民に周知する必要があります。外科医はなんとか治療したいと思っている。そのため、リスクも含めて選択肢を提示するのです。この点は、折に触れ、アピールしていきたいと思っています。

 最近では、結果として訴訟になってしまうケースが増えてきています。しかし、リスクの高い手術が少なくなるということは新しいチャレンジが行われていないということです。リスクを恐れて、すぐに“切除不能”としていては進歩が生まれません。普段、患者には、Recommendation付きで治療の選択肢を提示すると思いますが、自信を持って推奨できるよう、我々外科医は不断の努力が必要です。

 私が教授を拝命する際、「さらに研鑽を積んでいきます」と抱負を語ったところ、ある大先輩から、「教授とは、教え授ける立場なのだから」とたしなめられたことがありました。しかし、教授であっても貪欲に学ぶという姿勢を若い医師達に示していくことが大切だと感じています。