終末期癌患者が抱える精神的苦悩の全てに共通する大切なこととして、「わかってもらえたと感じられること」を多くの患者が指摘した。成人癌患者を対象として行われたスピリチュアルケアに関するインタビュー調査から示された。6月18日、19日と東京都で開催された第15回日本緩和医療学会学術大会で、聖隷三方原病院緩和支持治療科の森田達也氏が発表した。

 緩和ケアにおいて、癌患者の精神的苦悩を和らげるスピリチュアルケアは重要である。しかし、日本人を対象として、患者自身はどのようなスピリチュアルケアを希望しているのかを明らかにした研究はほとんどない。

 森田氏らは、終末期癌患者から見て、(1)精神的苦悩を和らげること、(2)精神的苦悩を強めていること、(3)精神的苦悩を和らげるために希望すること、(4)精神的苦悩に対して自分で行っている工夫――についての対処方策を収集し分類することを目的として、インタビュー調査による多施設共同研究を行った。

 スピリチュアルケアの定義は定まっていないため、この研究では同グループで使用していた精神的苦悩の定義、概念的枠組みにしたがうこととし、スピリチュアルペイン(精神的苦悩)の定義は「自己の存在と意味の消失から生じる苦痛」とした。

 対象は、全国の緩和ケア病棟11施設に通院または入院している成人癌患者69人(うち66人が入院患者、平均生存期間63日)と、民間モニター会社に登録している癌患者で医師から残存・再発が説明されている20人の計89人。

 対象の平均年齢は67歳、女性が61%を占めた。信仰・宗教は79%の患者が持っていなかった。原発部位では肺・胃・大腸が各12%、乳腺の10%がこれに続いた。ECOG PSは4が34%で最も多く、3が25%でこれに次いだ。

 インタビューは60分の半構造化面接で、現在または過去のつらさや心配について質問した。「関係性に由来する苦悩」「身体的コントロール感の喪失」「将来に対するコントロール感の喪失」「負担」「役割・楽しみ・自分らしさの喪失」「重要なことが未完成であること」「希望のなさ」「死の不安」の8つの苦悩について言語化した患者に対し、気持を楽にしてくれた、または逆につらくした医師・看護師・家族の対応や、気持ちを和らげるための患者自身の工夫について質問した。

 内容分析を行い、2人の研究者が独立して意味単位を分類し、1人の緩和ケア医師が妥当性を検討した。その結果、全ての精神的苦悩に共通する5つの方策と、8つの苦悩に対して38の方策が抽出された。

 全ての精神的苦悩に共通する方策として挙げられたのは、「病気以外のこともよく聞いてくれる」(58人)、「関心を持っていることが伝わる」(17人)、「気持ちを分かって一緒に考えてくれる」(36人)、「患者の意思が一番尊重される」(19人)、「ほがらかで親切である」(41人)の5つであった。

 そのうち「病気以外のこともよく聞いてくれる」についての患者の表現は、「ちゃんと答えていただけるということは、聞いていただいていると思うからうれしい」、「いすを持ってきて“今日はどうですか”と毎日のように来てくださる。決まった時間に決まって来てくださる」などであった。

 8つの苦悩に対する38の方策のうち、「負担」については、「医療者がなにげない日常生活の工夫をする」、「できることではなく存在や今の状態に価値があると考える」、「家族と気持を自然体で伝えあえる」などが方策としてあがった。

 そのうちの「医療者がなにげない日常生活の工夫をする」についての患者の表現は、「“どんどんナースコール押してよ”と言われると、言われたからといってどんどん押せるわけでもないけれど、うれしい」、「私が“ありがとう”って言わなくてはいけないけれど、看護師が“ケアをさせていただいて、ありがとうございました”と言っていく。涙が出るほどうれしかった」などであった。

 森田氏は、「分かってもらえたと感じられることが、全ての苦悩に共通する大切なこととして多くの患者が指摘した。いかにして人は精神的な苦痛やつらさをわかってもらえたと感じるのか、研究が必要」と述べた。

 さらに精神的苦悩の一部は、毎日の医療福祉従事者のなにげない態度や言葉がけの影響を強く受けていることが示唆された。森田氏は「ナースコールの例のように、スピリチュアルケアの前の段階のケアの工夫がいっそう研究・共有される必要がある」と話した。