リンパ節郭清を含む婦人科悪性腫瘍の手術後において、静脈血栓塞栓症(VTE)の発症予防を目的とした血液凝固阻止剤エノキサパリンナトリウムは安全に投与できると考えられることが、フェーズ2のKCOG(関西臨床腫瘍研究会)-G0903試験から示された。5月10日から12日まで札幌市で開催された日本産科婦人科学会第65回学術講演会で、静岡県立静岡がんセンター婦人科の高橋伸卓氏が発表した。

 エノキサパリンナトリウムは、2009年2月より「静脈血栓塞栓症の発症リスクの高い、腹部手術施行患者における静脈血栓塞栓症の発症抑制」の効能・効果の追加が承認された。しかし、国内での一般手術後の臨床試験では婦人科症例は数例であり、婦人科悪性腫瘍手術後の安全性は未確認である。

 そのため高橋氏らは、婦人科悪性腫瘍手術後にエノキサパリンナトリウムを投与し、安全性と有効性を明らかにすることを目的としてKCOG-G-0903試験を実施した。

 対象は、婦人科悪性腫瘍で、手術時間が45分以上の開腹手術または腹腔鏡下手術を受けた患者。2010年4月から2011年3月までに109人が登録され、術中出血多量などの理由で未投与の6人を除外した103人(年齢中央値57歳)とした。疾患の内訳は、子宮頸癌34人、子宮体癌40人、卵巣癌20人、その他9人だった。BMI中央値は21、投与期間の中央値は8日だった。

 エノキサパリンナトリウムは術後24時間以降に2000単位を連日1日2回、7-14日間皮下注射で投与した。主要評価項目は安全性で、再手術を要する出血、致死的な出血、投与前と比較し2g/dL以上のヘモグロビン値低下をきたす出血の発現率とした。副次的評価項目は有効性で、術後1カ月以内の症候性VTEの発現率とした。

 結果として、出血事象が出現したのは1人(0.9%)のみで、投与前と比較し2g/dL以上のヘモグロビン値低下を来す出血だった。患者は卵巣癌で腹式単純子宮全摘術+両側付属器切除術+右半結腸切除術を行っており、ドレーンからの出血を認めたが、輸血で問題なく改善した。その他に、ダグラス窩出血、創部周囲出血などのminor bleedingは5人に認められた。

 103人中、VTEを認めたのは2人(1.9%)だった。1人は深部静脈血栓(DVT)で、術後9日目のルーチンのCTで確認され、ワーファリンの内服で改善した。別の1人は肺塞栓症(PE)で、ルーチンのCTで確認され、無症候性であり、経過観察で自然消失した。症候性VTEの出現はなかった。

 リンパ節郭清と出血事象の関係も検討された。出血事象が出現したのは、リンパ節郭清未施行の39人中5人、リンパ節郭清症例の64人(骨盤内36人、傍大動脈28人)中1人だった。高橋氏は「リンパ節郭清の有無は、出血事象の増加と明らかな関連はないとみられる結果となった」と話した。

 7日未満で投与が中止されたのは10人で、出血事象が4人、肝酵素値上昇が3人、腎機能障害、湿疹、患者の希望による中止が各1人だった。肝機能障害は全対象では18人(17.3%)に発現したが、いずれも総ビリルビン値の上昇は認めなかった。

 過去の国内の報告では、肝酵素値上昇は3割前後に認めるとされている。欧米では肝酵素値のモニタリングは行われていない。高橋氏は「肝酵素値上昇を認めても、総ビリルビン値が不変であれば、肝機能障害は起こっていないとされ、エノキサパリンは継続できると考えられる。総ビリルビン値の上昇を認めた場合は原因精査と管理が必要」と話した。