「全例調査を有効に活用すれば、臨床試験では分からない実地臨床での有効性や安全性を明らかにできる。新しい治療戦略を考える上でも全例調査結果を有効に活用すべき」──7月26日から大阪市で開催された第10回日本臨床腫瘍学会のワークショップ「泌尿器科癌の新しい治療戦略」で、東京大学先端科学技術センターの赤座英之氏は、転移性腎細胞癌に対するスニチニブの全例調査結果を紹介しながら、こう訴えた。

 新しい薬剤の有効性を評価するためにランダム化臨床試験(RCT)が行われるが、RCTに登録される患者の条件は厳しく、それ以外の患者に対する効果や安全性については直接評価できない。一方、承認後に行われる全例調査は、治療のプロトコールが患者によって多様になってしまう、経過観察が不十分なケースもあるという欠点があるが、バイアスのない多数の症例において、実地臨床に即したデータが得られ、RCTでは分からない薬剤の特徴を解明することができる。

 今回、赤座氏は、転移性腎細胞癌に対するスニチニブの全例調査を解析した結果を報告した。一般に、全例調査は副作用を追跡することが中心だが、今回の調査では有効性のデータも収集しており、その解析結果についても報告した。

 全例調査に登録されたのは、2008年6月から2009年11月までに、切除不能な転移性腎細胞癌に対してスニチニブを投与された1673例。1671例が安全性評価を、1435例が有効性評価の対象となった。

 スニチニブ50mgを4週投与2週休薬で服用したのは1308例(78%)、37.5mgを4週投与2週休薬で服用したのは218例(13%)、25mgを4週投与2週休薬で服用したのが130例(8%)、その他の用量だったのが15例だった。スニチニブ投与時から24週間あるいはそれより前であれば治療を中止するまで観察した。24週間以上投薬できた患者は2年間まで追跡した。

 1671例の患者背景は、男性75%、年齢中央値62歳。65歳未満は56%、PSが0だったのは56%、1が34%、2以上が9%だった。体表面積中央値は1.64m2。有転移症例は88%。転移臓器は肺が65%、骨が31%、肝臓が17%だった。放射線治療歴があったのは20%、全身療法歴があったのは66%、IFN-α投与歴があったのは55%、ソラフェニブ投与歴34%、IL-2投与歴21%だった。

 減量を必要としたのは全体の58%で、50mgで開始した患者のうち64%が減量した。相対用量強度は6週までが72.59%、7-12週が67.36%、13-18週が63.06%、19-24週が59.60%だった。治療中止例は60%で、中止理由は有害事象が40%、効果が見られなかったのが37%、死亡が18%などだった。

 主な治療関連有害事象は、血小板減少が61.0%、手足症候群が36.9%、甲状腺機能低下が35.5%、高血圧が35.0%、白血球減少が32.7%など。グレード3以上の有害事象は、全般的には、投与開始から3〜4週後までに出現しており、その後の新たな出現の頻度は横ばいとなっていた。さらに興味深いのは、副作用の種類によって、このパターンが異なることだった。赤座氏は、「パターンを周知して治療に当たれば、その患者の有害事象管理は比較的容易になるだろう」と指摘した。グレード3以上の有害事象のリスク因子として多変量解析から見いだされたのは、年齢、性、冠動脈疾患既往歴あり、抑うつ気分、肝機能障害、腎機能障害、化学療法歴なしなど。

 有効性については、完全奏効が8例(0.6%)、部分奏効例が304例(21.2%)、病勢安定が578例(40.3%)で、客観的奏効率は21.7%だった。

 多変量解析では、肝機能障害がないグループの奏効率が22.9%で、肝機能障害がみられたグループの奏効率11.7%に比べて有意に高かった。同様に、PSが0のグループの奏効率が26.4%で、1以上のグループの奏効率15.2%に比べて有意に高かった。

 1年生存率と有害事象との相関を検討した結果、高血圧が見られたグループの1年生存率が86.7%、見られなかったグループが75.6%と、高血圧が見られたグループの1年生存率は有意に高かった。同様に、好中球減少(見られたグループ90.8% 対 見られなかったグループ78.0%、以下同)、血小板減少(87.2% 対 75.9%)、甲状腺機能低下(87.0% 対 82.0%)、手足症候群(94.1% 対 76.7%)と、各有害事象が見られたグループの1年生存率は見られなかったグループに比べて有意に高かった。

 全体の1年生存率は84.1%。最初の6週間で相対用量強度が70%以上だったグループの1年生存率は85.4%で、70%未満だったグループの81.6%に比べて有意に高かった。また、転移巣なし、あるいは肺単独転移例で予後が良かった。

 全体の無増悪生存期間(中央値)は159日で、用量強度70%以上の場合は162日と、70%未満の130日と比べて有意に良好なことなども明らかとなった。

 赤座氏は、「全例調査は現場の医師に負担をかけるものだが、同時に医学的興味は倍増し、研究者のモチベーションの向上に直結する。また、こうした仕組みを有効に活用すれば、米国食品医薬品局が調査を求める代わりに早期に承認をする仕組みと同様、わが国のドラッグラグの解消につなげられるのではないか」と指摘し、今後、全例調査が効率的に行われる仕組み作りが必要であると語った。