障害肝合併肝細胞癌患者の肝切除周術期における包括的リハビリテーションの臨床効果を検討した無作為化比較試験から、術後6カ月時に骨格筋萎縮に対する予防効果は認められなかったものの、障害肝に合併した血中インスリン値とインスリン抵抗性が有意に改善したことが示された。7月26日から28日まで大阪市で開催された第10回日本臨床腫瘍学会学術集会で、関西医科大学外科学講座の海堀昌樹氏が発表した。

 周術期の栄養代謝の維持は術後の予後に影響を及ぼす重要な因子であるが、これまでに肝切除術の管理において運動療法を組み合わせた報告はない。

 関西医科大学健康科学センターでは各患者に合わせた治療としての運動を処方しており、肝切除後運動療法も行われている。海堀氏らは、障害肝合併肝細胞癌患者に対する周術期の包括的リハビリテーションの臨床効果を検討した。

 対象は慢性肝炎・肝硬変を合併した肝細胞癌患者で、運動+栄養指導群と栄養指導群に無作為に割付けた。運動+栄養指導群では運動を術前約1カ月前から開始し、術後5-7日目から再開、各患者で設定された嫌気性代謝閾値(AT)で6カ月間継続した。ATは好気性代謝に嫌気性代謝が加わり出す時の運動強度で、ATレベルの運動は内臓脂肪を燃焼させる可能性が高く、また筋肉を刺激することで骨格筋が維持されると考えられる。海堀氏らは、障害肝併存肝細胞癌術後の患者では、ATレベルの運動による門脈流速、門脈流量の変化はないことを腹部ドップラーエコーで確認している。運動による食道静脈瘤の破裂などは発生していない。

 両群で術前・術後に、心肺運動負荷試験(CPX)、体組成評価(DEXA、In Bodyによる)、安静時代謝、心理テスト、血液生化学検査が行われた。CPXでは運動耐容能や運動能力を客観的に評価し、ATを設定するとともに、運動強度を確認した。
 
 肝疾患筋肉トレーニングプログラムには背筋や胸筋、肩などの運動も含まれるが、切開創への影響から術後は下半身の運動が中心となる。運動は週3回行うこととし、退院後は健康科学センターに月に1、2回来院して健康運動指導士の指導を受ける。

 運動+栄養指導群25人(平均年齢68.0歳、男性17人)、栄養指導群26人(同71.3歳、19人)の患者背景は両群で均衡がとれ、Child-Pugh分類でA/Bはそれぞれ24人/1人と25人/1人、糖尿病合併は22人と23人で、血液生化学検査値などに差はなかった。
 
 術後の平均入院期間は、運動+栄養指導群13.7日、栄養指導群17.5日となり、有意差はなかったが、運動を加えることで短縮する傾向がみられた(p=0.1200)。
 
 術前と術後6カ月時の変化率をみると、総重量は運動+栄養指導群95±3%、栄養指導群99±6%となり、運動+栄養指導群で有意に低下した(p=0.0375)。脂肪量は運動+栄養指導群86±14%、栄養指導群97±18%で、有意差はなかったが運動により低下する傾向がみられた(p=0.0685)。非脂肪量(骨格筋)はそれぞれ101±6%と100±6%で差はなかった(p=0.6492)。
 
 術前と比較した術後3カ月時・術後6カ月時の血中インスリン値は、栄養指導群と比較して運動+栄養指導群で有意に低下した(それぞれp=0.043、p=0.017)。インスリン抵抗性指数(HORM-IR)も、運動+栄養指導群で有意に低下した(それぞれp=0.02、p=0.023)。血糖値は両群で差はなかった。
 
 さらに運動+栄養指導群において、週3回運動を行った群(11人)と週5回以上運動を行った群(14人)を比較した。術後6カ月時の変化をみると、CPXでは、AT酸素消費量(VO2)と最大VO2が週5回以上運動を行った群で有意に増加した(それぞれp=0.0379、p=0.0015)。DEXA(二重X線吸収法)では、総重量と脂肪量は週5回以上運動を行った群で有意に減少した(それぞれp=0.0314、p=0.0075)。また血中インスリン値、HORM-IRも有意に改善した(それぞれp=0.0193、p=0.0232)。
 
 観察期間中央値24カ月の無病生存率(DFS)、全生存率(OS)、1年以内の早期再発率は、症例数が少ないこともあり、両群間で有意差はなかった。ただし、週5回以上運動を行った群でDFS、OSが良好な傾向は認められた。
 
 再発が頻発する肝癌患者では運動療法に積極的な患者ばかりではなく、モチベーションの維持は今後の課題である。また今回の結果では、周術期の約6カ月間の運動・栄養療法による骨格筋委縮の予防効果は認められず、検討が必要である。海堀氏らは肝癌の発生機序を考慮し、BCAA製剤を加えた単群の臨床試験を進めている。

 肝炎等克服緊急対策研究事業(厚生労働科学研究)として、平成23年度に「ウイルス性肝疾患患者の食事・運動療法とアウトカム評価に関する研究」(研究代表者:岐阜大学大学院医学系研究科・森脇久隆氏)が新規に採択され、海堀氏らもこの研究に参加している。本研究では患者の栄養評価、イベント(QOL障害)調査および栄養/運動指導調査が行われ、平成25年に新たなガイドラインが発表される予定である。