全国で診療の水準を引き上げることを目指し、診療の質を測定する指標(Quality Indicator:QI)を作成し、がん診療拠点病院における肺癌診療の質を測定した結果が示された。7月21日から23日に横浜市で開催された第9回日本臨床腫瘍学会学術集会で、京都大学大学院医学系研究科医療疫学分野の中村文明氏が発表した。同研究は、厚生労働省がん臨床研究事業ならびに国立病院機構共同研究の助成を受けて行われている。

 2007年4月にがん対策基本法が施行され、医療の質を全国で一定に保つため「がん医療の質の向上」(均てん化)が国の課題として定められた。肺癌診療ガイドラインは標準診療の普及に寄与していると考えられるが、その程度については研究が行われていない。

 中村氏らは、肺癌診療の質を測定する指標を作成すること、がん診療連携拠点病院における診療の質を測定することを目的として研究を進めている。

 医療の質の測定では、「過程(プロセス)」、すなわち実際に患者に行われた診療に焦点をあて、標準診療に沿った割合を質の指標(QI)とした。QI実施率は、分子を「行われるべき診療内容」、分母を「対象患者」として計算し、これをパーセントで示した。作成されたQIは、他の癌腫も含めてウェブ上で公開されている。

 QIの作成は国際標準手法に従い、10人の肺癌関連専門家パネルが検討し、35項目のQIが採用された。内訳は、治療前評価が7項目、手術・病理が9項目、非小細胞肺癌が7項目、小細胞肺癌が6項目、放射線治療が4項目、有害事象のフォローが2項目だった。

 QIの実測では、カルテから実際の診療における各QIの実施率を算定した。がん拠点病院18施設を対象とし、これらの施設で院内がん登録より2008年の全症例を抽出し、がん登録実務者による患者1人ずつのレビューとした。

 その結果、対象患者数は1253人(年齢中央値68歳、男性827人)となった。非小細胞肺癌は1030人、小細胞肺癌は199人、不明24人だった。臨床Stageは、Iが441人、IIが88人、IIIが287人、IVが376人、不明61人だった。

 18施設での施設分布をみると、実施率が高かったのは「CTシュミレーションによる放射線治療計画」で、ほとんどの施設で100%となった。

 多くの施設で実施率が低かったのは、「手術・病理所見の記録(腫瘍径、組織型など)」だった。原因は、ほとんどの施設で背景肺の所見の記載がないことで、今後この指標については必要かどうかのパネルによる議論を経て、不要となる可能性があると考えられた。

 施設間のばらつきが大きかったのは「切除不能Stage III非小細胞肺癌に対する化学放射線療法」で、原因は放射線療法の実施に施設ごとのばらつきがあったことだった。

 このようにQI実施率は、実施率が高く改善の余地の低いもの、実施率が低く標準診療ではない可能性のあるもの、実施率のばらつきが大きいもの、と3つのパターンに分かれた。実施率のばらつきが大きいものについては改善の余地が高いとみられた。

 ただし、今回の検討では作業量が多く、全国的に広げるためには優先順位をつけてQIを絞り込み、より広い施設で質の検証と向上に努める必要があると考えられた。

 今後の課題として中村氏はデータの正確性の検証を挙げ、さらに「質の指標のさらなる開発とともに、診療の改善へ向けた系統的な努力が望まれる」と話した。