新薬開発という目的を達成するため、基礎研究者は候補薬の探索に広く関与し、新たにステップを進め、臨床医、企業、国とともにギャップを埋めてリレーを行っていく必要がある。7月21日から23日にかけて横浜市で開催されている第9回日本臨床腫瘍学会学集会の会長シンポジウム「わが国における新薬開発の諸問題:産官学連携をどう進めるか」において、慶応義塾大学医学部先端医科学研究所遺伝子制御部門の佐谷秀行氏が基礎研究者の立場から話した。

 新薬開発は、候補薬剤の探索に始まり、非臨床試験、フェーズ1〜3の臨床試験を経て、製造販売承認申請、市販後安全性調査が行われる。佐谷氏は、基礎研究者の多くは、この流れのうち大学や研究機関が関与するのは「候補薬剤の探索」、特に特異的標的分子・シグナル・現象の同定の部分と考えていると指摘した。

 実際には、候補薬剤の探索を開始してからフェーズ1試験が開始されるまでに大きなギャップがあり、この部分を埋めるため基礎研究者はどう考えるべきかが大きな問題となる。

 候補薬剤の探索は、特異的標的分子・シグナル・現象を同定し、そこからアッセイ系を構築し、スクリーニングを行い、ヒット化合物や抗体などを取得し、それを最適化するという5つのステップに分かれる。

 最近の分子標的薬は、HER2やBCR-ABL、ALK遺伝子の転座など、癌のキーとなる遺伝子のイベントが基礎研究によって発見され、それに対する薬剤が開発されている。基礎研究者は、特にこの特定標的分子・シグナル・現象の同定は自分達の仕事と認識している。しかし、その後の過程にある大きなギャップを埋めるため、佐谷氏は「基礎研究者は企業、国、臨床医を待つだけではなく、最適化の前の段階まで、ともに考え、協力して進めるべき」と話した。

 近年ではアッセイ系が大きく変わり、細胞をベースにしたアッセイ系が構築されてきたため、多くの基礎研究者が関与できるようになった。またスクリーニングでも、多くの化合物や抗体が入手可能となり、知見が蓄積されてきたため、焦点を絞った薬剤の効果を細胞レベルで観察できるようになっている。

 さらに佐谷氏らは、癌や糖尿病、高血圧の治療薬ですでに薬物動態や副作用が明らかになっている既存薬を約2000種類集め、構築したアッセイ系に対してスクリーニングを行い、既存薬の新たな効果を見出すアプローチも行っている。こうしたアプローチは、癌組織の中でも特にストレスに強いとされる癌幹細胞を標的とした治療の考案につながっている。

 既存薬を用いた創薬研究の利点として、安全性・薬物動態に関するデータが存在すること、研究者が持っているアッセイ系の概念を証明できることに加え、佐谷氏は「アカデミアが創薬のプロセスを学習できること」を挙げた。

 ただし、問題として、特許が切れた薬剤、しかも多くは安価な薬剤であるため、企業の関心が低いことがある。対策として、新規概念や適応拡大による特許出願、公的資金による初期臨床試験の実施、同じアッセイ系を用いて新規薬剤を企業と共同開発することが考えられる。

 大学や研究機関は、候補薬剤の探索においてステップを新たに前に進めている。さらにスクリーニングの段階にベンチャー企業や大手の製薬企業の参加が得られれば、新薬開発という目標に向け、臨床医を含むリレーが上手に行える可能性があると考えられる。