日本臨床腫瘍学会学術総会会長の畠清彦氏

 第8回日本臨床腫瘍学会(JSMO)学術総会が3月18日と19日の2日間、都内で開催される。大きく変わりつつある抗癌剤治療の最前線の研究結果が報告される。会長を務める畠清彦氏(写真)に抗癌剤に関するトレンドをうかがった。


―― 分子標的薬が多数登場してきましたが、トレンドはどうなっていますか。

畠 分子標的薬は2000年に初めて日本で上市されました。最初の頃はBCR-ABL遺伝子が陽性、CD20たんぱく質が陽性、HER2たんぱく質が陽性といった、数千人以上の患者さんが対象になる疾患に対して、抗体医薬品や低分子化合物の医薬品が登場しました。

 ところが最近は、より細かく層別化された患者さんを対象にした分子標的薬の開発が進んできています。例えばALK遺伝子の変異といった、肺癌患者全体のわずか数%にしか存在しない標的を対象とした分子標的薬、リツキシマブというCD20たんぱく質を攻撃する抗体薬が効かなかった人を対象とした分子標的薬、トラスツズマブが効かなかった群で、特定の変異を持っている人を対象とした分子標的薬などです。

 一方で、分子標的薬でも一塩基多型(SNP)などによって下痢が出やすい、白血球が減りやすい、効果が出にくいという例があることも分かってきました。用量設定も患者によって分かれるという方向性が出てきていると思います。バイオマーカーの研究が進んだ結果、患者さんを細かく選ぶ時代になってきました。

―― 分子標的薬時代の腫瘍内科医とはどうあるべきでしょうか。

畠 分子標的薬で重要な点は、特定の癌種にある標的分子を叩くことを目的に開発してみても、複数の癌種に効くということが起きることです。例えば、ソラフェニブはまず、腎細胞癌の治療薬として開発されましたが、その後肝細胞癌に適応が拡大し、今度はまれな癌ですが甲状腺癌を対象とした臨床試験が始まろうしています。またHER2を標的とするトラスツズマブは、乳癌だけでなく胃癌にも効果があることが分かりました。今までの腫瘍内科医は、臓器別に勉強をするのが中心でした。今後の腫瘍内科医は、もっと積極的に標的分子のことを勉強していくことが求められます。例えば、乳癌や胃癌だけを勉強するのではなくて、HER2という分子がどういうものなのかということまで勉強していくことになるでしょう。一方、分子標的薬には予想もしない有害事象が起きる場合もあります。これらのことをきちんと把握していかなければいけません。そのために、新しい分子生物学的な知識を身に付けていくことも大切になってきています。

 腫瘍内科医は、有害事象のマネジメント能力を付けつつ、臓器を超えて診察ができないといけない、患者さんに効果があるか、ないかも理解して説明ができる、セカンドオピニオン等に対応できるというレベルの高い「がん薬物療法専門医」が必要な時代に入ってきたのではないかと思っています。

―― 実際に抗癌剤を使っていらっしゃるのは外科の先生が多いですが、腫瘍内科医の役割をどうお考えですか。

畠 外科の先生が診断をして、手術をして、抗癌剤治療もして、緩和ケアまで行っているという面が確かにあります。しかし医師としてのQOLが悪いだけではなく、翌日の検査や手術に差し支えが出るということもあります。手術日には連絡を付けにくく、有害事象の管理などに向かないという点もあります。これらの点を考慮すると、有害事象の管理は腫瘍内科医が主導性を持って行っていかないといけないと思います。特に外来治療センターでの投薬や治験における有害事象の判断、他の専門領域の先生に紹介するタイミングなどは、腫瘍内科医が積極的にやっていかないといけない時代に突入したと思います。

―― 腫瘍内科医の質と量は十分なのでしょうか。

畠 がん薬物療法専門医の試験に今年合格された医師も含めると、がん薬物療法専門医となった腫瘍内科医が400人を超える状況です。計算上は379の癌拠点病院に1人ずついることになりますが、実際には半分の200ぐらいの病院に、複数名のがん薬物療法専門医がいるという状況ですからまだまだ足りません。

 腫瘍内科医にとってがん薬物療法専門医の資格は、キャリアパスを考えると途中経過に過ぎないのです。専門医の合格はゴールではなく、最低限の入口に過ぎなくて、もっともっと上を目指さなければいけません。

―― 今後の抗癌剤開発における日本の役割はどうなるでしょうか。

畠 ASCOの理事、ESMOの理事に、JSMOにどんな期待をしているかを尋ねると、アジアにおけるリーダーをまず目指してほしいという答えが返ってきます。アジアを拠点、日本を拠点として、アジアでないとできない臨床試験が行われることが期待されています。例えば、EGFR変異のある方に対するゲフィチニブやエルロチニブの試験のようなものです。B型肝炎、C型肝炎の問題もあって、肝臓癌も日本、アジアに多い病気です。

 韓国や中国は3つか4つに拠点を決めて、大規模な臨床試験を進めようとしています。日本も各施設がまとまってレベルアップをしていく必要があると思います。