大腸癌に対する術後回復強化(Enhanced Recovery After Surgery:ERAS)プロトコールにおいて、早期経口摂取は安全に遂行でき、早期回復から術後の在院日数の短縮につながる可能性が示された。7月13日から15日にかけて名古屋市で開催された第66回日本消化器外科学会総会で、大阪府済生会千里病院消化器外科の太田博文氏が発表した。

 ERASプロトコールとは、術後の早期回復に対する有効性が科学的に検証されている周術期の管理方法を包括的に組み合わせ、術後回復強化を図る取り組みである。欧米で誕生し、腸管前処置中止、術前炭水化物負荷、早期経口摂取、術後胃管なし、麻酔前投薬中止、硬膜外麻酔、短時間作用型麻酔、小さな創部、ドレーンなし、などが要素に含まれている。

 太田氏らは2008年2月より同プロトコールによる周術期管理を開始し、経過が順調なことから、同年10月よりクリニカルパスとしている。今回は、同プロトコールから術前炭水化物負荷と早期経口摂取について報告された。

 腸管前処置が不要な場合(右側結腸切除術、横行結腸切除術)、食事は手術前夜まで、牛乳を除く飲料は手術2時間前まで摂取可とする。腸管前処置が必要な場合(左側結腸切除術、直腸切除術)、食事は前日昼まで摂取可とし、下剤を内服し、夕方は濃厚流動食とする。飲料については、腸管前処置が不要な場合と同じである。

 いずれの場合も、術前炭水化物負荷として、手術前夜にエレンタール300kcalを服用する。さらに手術当日、朝6時に等張エレンタール540mLを服用する。欧米では12.5%炭水化物含有飲料の市販品があるが、国内にはないため、等張エレンタールで代用している。

 懸念されるのは麻酔導入時の嘔吐であるが、これまでに嘔吐などの問題は発生していない。麻酔導入時の胃液量を比較すると、前日夜から絶飲食とした12人では平均2.8mL、手術2時間前までにスポーツドリンク500mLを服用した21人では7.3mL、手術2時間前までに等張エレンタール540mLを服用した25人では22.0mLだった。

 早期経口摂取として、帰室後3時間で飲水可とし、希望すればガムも可とする。術後1日目の朝から3分粥を開始し、昼で輸液は中止する。術後2日目の朝から5分粥に進める。

 太田氏らは、大腸癌で、2008年10月から2010年6月までに腹腔鏡手術でERASプロトコールを用いた83人(年齢中央値70歳、男性49.4%)と、2007年1月から12月までに腹腔鏡手術で従来の大腸手術パスを用いた20人(同71歳、45%)の成績を比較した。

 食事開始日の中央値は、ERASプロトコールを用いた群で術後1日、従来の大腸パスを用いた群で術後4日目となった。第一排ガス、第一排便、術後の在院日数は、ERASプロトコールを用いた群では術後1日目、術後2日目、11日、従来の大腸パスを用いた群では術後2日目、術後4日目、17日となり、いずれもERASプロトコールを用いた群で有意に改善された(いずれもp<0.01)。また、ERASプロトコールを用いた患者では、万歩計で測定した歩数が術後2日目には術前と同様となることも示された。

 術後合併症は、ERASプロトコールを用いた群では、イレウスが3人(3.6%)、創感染が5人(6%)、縫合不全が3人(3.6%)に発生した。従来の大腸パスを用いた群ではそれぞれ2人(10%)、2人(10%)、0%で、両群に有意差はなかった。

 ERASパス逸脱の定義を「術後1日目から食事摂取が開始できなかった場合」「2日目以降に食事が摂取できず、持続点滴を要した場合」とすると、完遂率は91.6%となった。

 太田氏は、ERASプロトコールで早期経口摂取が成功する鍵として、炭水化物負荷(術前脱水補正)、輸液制限、術後の嘔気嘔吐対策、手術当日の覚醒後からの座位と早期離床、腹腔鏡手術、慎重な適応の選択(術前のイレウス、サブイレウスは適応外)を挙げている。