第65回日本消化器外科学会総会が7月14日から16日の3日間、下関市で開催される。大きく変わりつつある消化器癌治療の最前線の研究結果が報告される。会長を務める岡正朗氏にトレンドをうかがった。


会長を務める山口大学大学院消化器・腫瘍外科学(第2外科)教授の岡正朗氏

―― 先生にとっての消化器癌のトピックスは何ですか

岡 まず挙げられるのは、鏡視下手術が癌領域でどんどん行われるようになったことです。胃癌に関しては早期癌で非常に多く実施されています。大腸癌に関してはすでにかなり進行した癌に対しても多く行われています。4月1日から保険収載となった肝臓癌、転移性肝癌への鏡視下手術も広がってきています。

 鏡視下手術の意義は、1つは体にやさしい低侵襲手術という点です。それから手術領域が大きく写り、見えないところがないということで手術が行いやすい。さらに教育という意味でも貢献します。管腔臓器である、食道、胃、大腸が鏡視下手術の中心でしたが、実質臓器である肝臓の切除も保険収載になったというのは大きな進歩だと思います。

―― 装置などが進歩した結果でしょうか。

岡 もちろんそうです。様々な血管を切除しますが、縛らなくても止血できる装置ができたことや、手術部位全体を写すカメラ全体など、いろいろなデバイスが非常に良くなったことが挙げられます。

 それと教育です。コンピューターを使ったシミュレーター、動物を使った実習といったことが、浸透してきました。

―― 化学療法はどうでしょうか。

岡 消化器外科の分野では、切除不能癌に対する投与を含めた手術の補助療法としての抗癌剤の位置付けが、重要になってきています。抗癌剤の中には分子標的治療薬が多く出てきたのも消化器領域です。

 現在、私が注目しているのは、術前の化学療法です。直腸癌に関しては化学放射線療法を手術前に行うことが海外では盛んですが、日本でも今いろいろ試されています。食道癌に関しては、リンパ節転移があるものは術前に化学療法ないしは化学放射線療法をある程度行ってから手術をした方が結果がよい、予後がよいということも明らかになってきました。さらに大腸癌の肝転移で、場合によっては術前に分子標的治療を組み合わせた化学療法を行い、肝切除をするということがだんだん出てきました。
 
 こうした動きがでてきた背景には化学療法の切れ味がよくなったことがあります。そのため、手術ができるかできないかという状態のときには、まず化学療法をやって、それから手術をしようという考え方や、ダウンステージングしてから手術をするという考えがあるのです。ただし、化学療法と放射線療法も含め、あまり実施しすぎると術後の合併症がかなり増えます。患者さんの治療成績が落ちることになってはいけません。適度な化学療法、放射線療法であればそれほど併症も増えないということも報告されているので、今からの臨床研究が待たれるところでしょう。

―― 術後の補助療法についてはどうなのでしょうか。

岡 術後アジュバントに関しては多くの臨床試験が行われています。肝臓癌にははっきり効果のあるものがありません。膵臓に対しては術後ゲムシタビンを使うと、全生存がよいことが試験で示されましたので、標準になっています。

 胃癌に関してはS-1を中心とした補助療法、大腸癌の場合はステージングによって5-FU/ロイコボリンがよいとされています。ただし、大腸癌の場合、最近はFOLFOX、FOLFIRIを術後に行うのがいいという外国のデータが出て、日本でも利用が可能になりました。

 臨床試験で術前の化学療法を実施することは、外科医でないとできないところですし、術後補助療法の有用性も本来なら外科医が評価できる領域です。

―― 免疫療法についてはいかがでしょうか。

岡 主に世の中でやられているのがワクチン療法です。ワクチン療法は前の政権のときに特区に認められて、東京大学の中村祐輔先生、それから久留米大学の伊東恭悟先生、札幌医科大の佐藤昇志先生の3人が中心になり、全国の大学、施設が参加して、いろいろな種類のワクチン療法を行っています。

 消化器に関しては食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵癌が中心です。私どもは食道癌、胃癌、大腸癌、膵癌を対象に行っています。大腸癌と膵癌のフェーズ1試験は終了しました。大腸癌に対してはフェーズ2試験で、切除不能の患者さんを対象にワクチン療法+FOLFOXを行っています。特定のHLAに拘束性のワクチンですが、患者さんのHLA型を伏せて試験を行っています。

―― 今回の消化器外科学会で伝えたいことは何でしょうか。

岡 研究マインドを持った外科医が育ってほしいということです。外科医が減り忙しくなったので、研究にまで手が回らないというのも事実なのです。しかし、ややもすると専門医へと走りがちな若手の医師を、研究を行うことによって新しい治療に踏み出させない限り、明日の医療はないです。基礎研究をしろということではなく、臨床研究も含め、研究を一度経験してほしいのです。その必要性についてぜひともディスカッションをしていただきたいというのが、私の思いです。