大腸癌の専門医によって構成される大腸癌研究会は7月、「大腸癌治療ガイドライン―医師用 2009年版」を発刊した。同ガイドライン2005年版を改訂したもので、最近承認された新たな治療薬や新たな診療技術の進歩を盛り込むなど、ここ数年で大きく変化した大腸癌治療を反映した内容となっている。以下に、主な改訂のポイントを紹介する。

 2009年7月16日から18日まで大阪市で開催された第64回日本消化器外科学会総会では、栃木県立がんセンター外科の固武健二郎氏が「消化器がん診療ガイドラインの現状と問題点」と題した特別企画の中で、改訂のポイントについて述べた。

 固武氏はまず、「2005年版では、癌の進行度に応じた大まかな治療方針を最初に示し、後に治療法についての解説を加えていた。2009年版ではこれに加え、より詳しい治療方法を解説する『クリニカルクエスチョン』という項目を設けた。各クエスチョンごとに推奨度を示し、専門医の間で議論が分かれている問題についても、両論を併記するよう努めた」と説明した。

 2005年版は、読みやすいという声がある一方で、各治療法についての推奨度が設けられておらず、エビデンスレベルがわかりにくいとの批判もあった。そのため、今回は文献検索によるエビデンスの評価とガイドライン作成委員によるコンセンサスに基づいて、治療法ごとに4段階の推奨カテゴリー分類が示されている。

 作成過程の透明性を高めるため、ガイドラインの総説部分には、文献の検索法やエビデンスの抽出および評価方法など、2005年版よりも細かな記述が加えられた。

腹腔鏡下手術の実質的な適応拡大

 治療方針にかかわる主な改訂は、‘盪覿声N鏑∧腔鏡下手術J篏化学療法ず独大腸癌への化学療法ソ儻絅機璽戰ぅ薀鵐后宗修5項目にわたる。

 内視鏡治療については、内視鏡治療後、より進行した癌だとわかった場合に追加で手術を行う基準が変更された。これまでの基準では、約9割の患者に転移がないにもかかわらず、追加の手術が必要とされてきたが、追加の手術を考慮すべき項目を増やし、かつより多くの因子を考慮した上で追加の手術を決定すべきと記載された。

 また、2005年版では内視鏡的粘膜切除術(EMR)の中に含まれていた内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)に関しては、ESDの普及を受けて項目を独立させ、注意喚起のために、難易度が高く一般的ではないという注釈を加えた。

 腹腔鏡下手術は、2005年版では対象が早期大腸癌に限定されていたが、癌の場所や進行度、患者の状態、術者の経験や技量などを考慮して適応を決定するとの記載に変更され、より幅広い患者に腹腔鏡下手術が実施できるようになった。

化学療法は推奨レジメンが多様に

 化学療法の項目も大きく見直された。補助化学療法については、2005年版では5FU/LV療法のみが記載されていたが、保険収載を受けて、2009年版にはUFT/LV療法、カペシタビン療法の2療法が推奨レジメン(投与計画)に加わった。また、海外の臨床試験で話題となったFOLFOX療法やFOLFIRI療法などの成績もコメントとして付記した。肝転移のある患者に対する術前化学療法についても、日本で研究が進んできたことから、新たに取り上げた。

 切除できない進行再発癌に対する化学療法は、2005年版では使用可能なレジメンの列記にとどまっていた。これも2009年版では、新たな薬剤の承認と臨床試験の結果を受けて、一次治療、二次治療、三次治療の段階ごとに、それぞれ推奨されるレジメンを治療アルゴリズムの形式で記載したものに改められた。

 一次治療・二次治療の推奨レジメンとしては、2007年に承認された分子標的薬のベバシズマブが、二次治療・三次治療の推奨レジメンとしては、2008年に承認された分子標的薬のセツキシマブが盛り込まれた。例えば、一次治療はFOLFOX±ベバシズマブ、二次治療はFOLFIRI±ベバシズマブまたはFOLFORI(CPT-11)±セツキシマブ、三次治療はCPT-11+セツキシマブまたはセツキシマブ――といった世界標準に近い治療アルゴリズムが新たに記載された。

 術後サーベイランスに関しては、これまで併記してきた胸部X線検査と胸部CT検査、および腹部超音波検査と腹部CT検査について、精度の面からいずれもCT検査が望ましいという表記に改めた。また、同様の観点から注腸造影検査の記載を省き、大腸内視鏡検査のみとした。

ウェブサイト公開のルール作りも

 こうした治療ガイドラインの詳細は、日本医療機能評価機構の「医療情報サービス Minds」や日本癌治療学会の「がん診療ガイドライン」といったウェブサイト上で見ることができる(現在公開されている「大腸癌治療ガイドライン」はいずれも2005年版)。

 「医療情報サービス Minds」では、一般向けのガイドライン解説と医療関係者向けのガイドラインが別に公開されているが、書籍としては医師用と患者・家族用に明確に分かれているガイドラインを、すべて広く公開すべきかどうか、疑問の声があることも事実だ。また逆に、即時性の高いウェブサイトをより効果的に活用すべきとの指摘もある。

 こうしたことから固武氏は、「日本癌治療学会と協力して、ウェブサイト上でのガイドライン公開に関するルール作りに取り組んでいるところ」と明かす。今後、より多くの人に、よりわかりやすい形でガイドラインが公開されていくことが望まれる。