高度血管侵襲陽性肝細胞癌に対し、術前単回肝動注化学療法(CAM)による手術適応の決定と予後予測が、治療成績の向上に有用なようだ。7月16日から18日に大阪市で開催された第64回日本消化器外科学会総会で、藤田保健衛生大学第1消化器外科の棚橋義直氏が報告した。

 門脈一次分枝、門脈本幹、右・中・左肝静脈本幹、下大静脈などに侵襲(腫瘍栓)を認める高度血管侵襲陽性(Vp3、Vp4、Vv2、Vv3)肝細胞癌(HCC)は予後不良で、「肝癌診療ガイドライン」にも治療法は記載されていない。そのため、各施設でさまざまな取り組みが行われている。

 棚橋氏らはCAMとして、カルボプラチン(CBDCA)150mg/body、ドキソルビシン(商品名:アドリアシン、ADM)20mg/body、マイトマイシンC(MMC)8mg/bodyを、手術前に1回のみ肝動脈内に注入する。

 今回の検討では、CAM施行2週間後に腫瘍マーカーのAFPおよびPIVKA-IIが50%以上低下するか、造影CTで腫瘍の縮小や腫瘍栓濃染の軽減が認められた場合に「有効」、それ以外を「無効」と判定し、手術適応決定と予後予測におけるCAMの有用性を評価した。

 CAM施行例33人中、有効例は14人、無効例は19人。CAMの効果別に肝切除後の予後を比較すると、有効例14人の5年生存率は61.5%で、無効例19人の2年生存率6.8%よりも有意に良好だった(p=0.0005)。また、有効例の3年無再発生存率は42.8%で、無効例の1年無再発生存率0%に比べ、有意に良好だった(p=0.002)。

 CAMが有効な症例で手術後の生存率や無再発生存率が良好であったことから、予後不良とされる高度血管侵襲陽性HCCでも肝切除が有効な症例を、CAMの効果で選択できると考えられる。CAMの予後予測に基づく早期治療によって、有効群の予後は向上しつつあるという。有効例では最長で肝切除後10年8カ月生存した症例もある。

 さらに、肝切除後の再発形式にもCAMの効果によって明らかな差がみられた。肝外の転移再発は、有効例では肺と横隔膜の2例のみ(15%)であったのに対し、無効例では15例(79%)に上り、肺やリンパ節、骨など様々な部位に遠隔転移を認めた。

 ただし、CAM有効例では腫瘍栓が血管壁に固着しやすくなり、手術時の腫瘍栓の摘除に難渋する場合が少なくない。そのため棚橋氏らは、腫瘍栓を摘除する術式の標準化も検討している。門脈および静脈腫瘍栓先進部の位置によりAからDのゾーンを設定し、下大静脈の遮断や門脈バイパスの作製、人工心肺の使用の下に、段階的に腫瘍栓のゾーンを下げながら摘除していく方法で、血行遮断時間の短縮や出血量の軽減が可能となる。