第64回日本消化器外科学会総会が7月16日から18日までの3日間、大阪市内で開催される。大きく変わりつつある消化器癌の治療法など、消化器疾患の最前線の研究が報告される。会長を務める塩崎均氏に話をうかがった。


──最近の消化器外科領域のトピックスは何でしょうか。

塩崎 消化器疾患の癌の治療でのトピックスは、集学的治療でしょう。外科的治療、放射線療法に、免疫療法と分子標的薬を含めた化学療法という4つの柱を、患者ごとにどう組み合わせれば良いのかが模索されています。
 抗癌剤を前もって投与してから手術をした方が良い患者、そうではなくいきなり手術にいった方が良い患者、内視鏡で粘膜切除というかたちで取ってしまった方が良い患者といった具合に、患者ごとに、どういう治療法が適切かということが解明されつつあります。
 ただし、その全貌はまだわかっていません。例えば一時期、食道癌の化学放射線療法が脚光を浴びました。半分ぐらいの人で癌が消えることが分かり、これは今までになかった大きなトピックスでした。ところが、数年経つうちに、癌が消えた患者のうち、半分は再発することが分かってきました。治療法の本当の有効性が分かるのには3年あるいは4年かかるのです。集学的治療において、手術、一般の化学療法、放射線については、どう組み合わされば、適切なのかは見えてきました。次に分子標的薬と免疫療法の理解が進んでくれば、より良い治療法が確立してくるでしょう。

──今回の消化器外科学会で特に注目されるテーマはなんでしょうか?

塩崎 医療環境の問題は大きく取り上げるつもりです。今、外科医が急激に減少しています。消化器外科医の勤務環境改善のためになすべきことは何か、特別企画で取り上げます。3年ほど前に医療環境に関する委員会を私が委員長となって立ち上げました。その時に会員にアンケートを取り、その結果を学会でまとめて発表し、メディアにもアピールさせていただきました。この経緯もあって、今回もアンケート結果の報告がなされます。
 また、新しい臨床研修制度についても特別企画で議論します。この2つで、若い外科医の育成問題を扱います。

──専門医制度も取り上げるようですが。

塩崎 実は学会として専門医制度を最初に作ったのは、消化器外科学会です。今回の総会で、専門医が実際にその役割を果たしているかどうかを検証します。
 現在、学会が認定した専門医制度指定修練施設(認定施設)が約700あります。この中には専門医がいる認定施設と、そうでない施設があります。認定施設からは、手術のデータを、合併症、生存率のデータも含めて、出してもらうことにしています。これらをデータベースにしてきちんと解析しました。専門医が手術に関与している施設は、後の合併症も少ない、あるいは癌の種類や部位によっては生存率が違うというデータが出てきています。

──ところで今回の学会のテーマは『「洗心」−今、医療の原点を求めて−』です。

塩崎 これは会長講演で大きく取りあげますが、私自身が先生から何を教わったのかということと、これから育ってくる若い医師に何を求めているかを話します。洗心とはいつも心を清らかにして物事にあたりなさいということです。そして医の原点は何かを見直しましょうといいたいのです。医療はサービス業だとよく言われますが、私はそう考えてはいません。医者は聖職者だと思います。特に外科はメスを持ちますから、心を洗ってやりましょうということを伝えたい。
 もちろん、メスを持つ以上外科医は技術を磨かなければいけません。下手というのでは、いくら心が伴っていても駄目だと思います。しかし、技術だけでは患者さんは決してよい医療を受けたとは言えないでしょう。技術を磨くのはもちろんですが、その技術を裏付けるのは人間性であり、医者の心だと考えています。