静脈血栓塞栓症(VTE)を予防するため、日本人の婦人科悪性腫瘍手術患者を対象に術中の間欠的空気圧迫法(IPC)施行後に低分子量ヘパリンのエノキサパリンを投与したところ、肺血栓塞栓症(PE)発生率は、IPC単独群と比べて有意に低かった。無作為化比較試験の結果について、東京慈恵会医科大学産婦人科の永田知映氏が、7月19日から21日まで東京都内で開催された第54回日本婦人科腫瘍学会学術講演会で発表した。

 VTEは婦人科悪性腫瘍手術患者における致死的な合併症の1つとして知られる。VTE予防法は国内外のガイドラインで示されており、IPCや弾性ストッキングを用いた理学的予防法と、低分子ヘパリンや低用量未分画ヘパリンなどによる薬物的予防法が推奨されている。例えば、日本の肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症予防ガイドラインでは、高リスク患者に対してIPCまたは低用量未分画ヘパリンを勧めている。

 だが、根拠となる研究データの多くは、欧米の患者や婦人科悪性腫瘍手術以外の患者を対象にしたものである。また、日本でエノキサパリンなどの抗凝固薬を投与する場合、原則として術後24〜36時間に投与することが用法・用量で定められているため、海外と状況が異なる。

 そこで永田氏らは、日本人の婦人科悪性腫瘍手術患者を対象に、術中IPC施行後に抗凝固薬エノキサパリンを術後24〜36時間に投与開始した場合のVTE予防効果と安全性について、IPC単独施行患者と比較する無作為化試験を実施した。

 対象は、2011年4月〜12月に術前スクリーニングでVTEが認められなかった40歳以上、腹部または骨盤、そのほかの部位で45分以上の手術を予定する悪性腫瘍疑いまたは診断患者30例。術前にVTEスクリーニングではD-dimer値を測定し、1μg/mL以下の場合はVTEなしと診断した。D-dimer値が1μg/dL超の場合は胸部・腹部・下肢の造影CTまたは超音波検査を行い、VTE症例を除外した。

 術中から術翌日までIPCを実施。術翌日に無作為化割り付けを行い、術中IPC+エノキサパリン(エノキサパリン群)とIPC単独群の2群に割り付けた。IPC群は離床するまでIPCを継続した。エノキサパリン群は術翌日からIPCを中止し、エノキサパリン20mgを12時間ごとに術後7日間投与した。術後2、4、6日目に血液検査を、術後9〜11日目には造影CT撮影を行った。

 評価項目は、症候性および無症候性の深部静脈血栓症(DVT)とPE、安全性については臨床的顕在性出血事象および血小板減少症。今回は、30症例(エノキサパリン群16例、IPC単独群14例)での中間解析結果を報告した。

 患者背景、手術時間、術中出血量、完全離床までの期間などについて両群間に有意差はなかった。原疾患は、子宮頸癌がエノキサパリン群6%、IPC単独群21%、子宮体癌が50%と36%、卵巣癌が38%と42%。

 解析の結果、PE発生率はIPC単独群が21.4%だったのに対し、エノキサパリン群が0%と有意に低かった(p=0.04)。DVT発生率はエノキサパリン群が6.3%、IPC単独群が21.4%、VTE発生率はそれぞれ6.3%、35.7%で、どちらもエノキサパリン群で発生率が低い傾向があったが、有意差は認められなかった(それぞれp=0.29、p=0.06)。

 IPC単独群で高いPE発生率だったことから、効果安全性評価委員会の勧告を受けて試験は中止された。

 これらの結果から永田氏は、「安全性評価については十分な症例数を登録する前に試験中止となったが、本研究の結果から、日本人婦人科悪性腫瘍術後患者における術中IPC+エノキサパリン併用療法は、IPC単独群と比べ、術後PEの発生を有意に減少させる可能性が示唆された」と語った。評価項目である致死的VTEの発生頻度が低いため、今後は多施設共同による研究が求められると指摘した。