婦人科腫瘍周術期における静脈血栓塞栓症(VTE)のスクリーニングの意義と対処法の検討から、治療開始前の無症候性VTEの発症頻度は高率で、スクリーニングによるVTEの発見と適切な対処により、術後の致命的な症候性VTEの発症率が低下したことがわかった。さらに低分子量へパリンを用いた術後選択的長期間抗凝固療法は、周術期のVTE発症の予防効果を高める可能性も示された。7月19日から21日まで東京・台場で開催された第54回日本婦人科腫瘍学会学術講演会で、筑波大学医学医療系産科婦人科学の櫻井学氏が発表した。

 櫻井氏らは、治療開始前のVTE(以下、治療前VTE)の発症頻度とリスク因子を明らかにするとともに、「治療前VTEに対して適切に対処することで、術後の症候性VTEの発症を低下させることができるか」、「術後に行う、選択的かつ長期間の低分子量へパリン療法で周術期の症候性VTEをどの程度予防できるか」を検討した。

 発症頻度の検討の対象は、2004年1月から2012年12月までに同院で初回治療を行った婦人科癌患者1291人。内訳は、子宮頸癌485人(年齢中央値50歳、BMI中央値22.0)、子宮体癌476人(同58歳、23.8)、卵巣癌(卵管癌、腹膜癌、境界悪性腫瘍を含む)330人(56歳、21.7)だった。

 治療前VTEのスクリーニングとして血清D-dimer(DD)を測定し、その後卵巣癌では全例に、子宮頸癌と子宮体癌では、DD1.5μg/mL以上(2009年8月以降は1.0μg/mL以上)の患者に、下肢静脈超音波検査を行った。深部静脈血栓症(DVT)が発見された患者では、肺血流シンチグラムまたは胸部造影CTで肺塞栓症(PE)を検索した。

 治療前VTEは166人(12.9%)で発見され、このうち161人が無症候性だった。VTEは卵巣癌が24.8%と最も多く、子宮頚癌では5.8%、子宮体癌では11.8%で、いずれの癌腫の間にも有意差を認めた。

 「治療前VTEに対して適切に対処することで、術後の症候性VTEの発症を低下させることができるか」の検討では、治療前VTEが発見された166人から、治療に手術が含まれなかった患者を除く128人を対象とした。内訳は子宮頸癌5人、子宮体癌45人、卵巣癌78人だった。

 治療前VTEの発見後は直ちに抗凝固療法を開始し、中枢性のDVTの有無、浮遊血栓や肺塞栓症の存在を考慮して下大静脈(IVC)フィルターの挿入を検討した。DVTが末梢型で器質化傾向にある場合、血栓がPEとなるリスクは低いと考え、通常手術を行った。病状が進行しており、かつ化学療法が有効な組織型が推定される場合などには、術前補助化学療法(NAC)を行った。原発巣の摘出がVTEの改善にもなる場合などには、縮小手術を行った。NACと縮小手術を行った場合は、血栓の状態が安定した後に根治的な術式の完遂を目指し、間欠的空気圧迫法(IPC)は行わなかった。

 その結果、通常手術では52人、NACでは41人、縮小手術では35人にVTEの対処法がとられ、このうちIVCフィルターを留置したのは、それぞれ2人、2人、3人だった。

 治療前VTEが発見された128人中、術後に症候性VTEが発症した患者は5人(3.9%)だった。治療前VTE(主に無症候性)に適切に対処することにより、術後の症候性VTEの発症頻度が減少すると考えられた。

 「術後に行う、選択的かつ長期間の低分子量へパリン療法で周術期の症候性VTEをどの程度予防できるか」の検討では、対象を周術期のVTEプロトコール改訂前後の2群とした。

 2004年11月から2009年7月までのA群は、VTEでBMI 28以上の患者で、術後8-12時間を目安に未分画へパリンを開始し、術後3日間程度投与した。手術開始時から全例に弾性ストッキングを装着し、VTE患者以外にはIPCを装着した。

 A群では527人に開腹術が行われ、術後症候性VTEは13人(2.5%)に発症した。術後7日目以内に7人に発症し、このうち5人は治療前VTEが術後症候性VTEとなり、うち4人は術後のへパリン開始が帰室後18-23時間となっていた。術後のへパリン開始時間を順守した2009年8月以降、術後症候性VTEは認めなくなった。術後8-21日目には6人に発症し、全例にリンパ節郭清が施行されていた。

 A群の結果をふまえてプロトコールが改訂された。2009年8月から現在までのB群には、リンパ節郭清を伴う手術を受けた患者、BMI 28以上の患者、VTEの既往がある患者、血栓性素因がある患者、治療前VTEが発見された患者が含まれる。これらの患者には、低分子量へパリンを用いた術後抗凝固療法を14日間以内で出来るだけ長く行うこととしている。

 B群では453人に開腹術が施行され、術後の症候性VTEの発症は2人(0.4%)で、プロトコール改訂前のA群と比べて有意に減少した(p=0.016)。術後に低分子量へパリンを用いた選択的かつ長期間の抗凝固療法は、周術期の症候性VTEの発症予防に有効であることが示された。