MET蛋白の過剰発現は卵巣明細胞癌の有意な予後規定因子であり、治療の標的にもなりうることが示された。7月22日から札幌市で開催された第50回日本婦人科腫瘍学会で、防衛医科大学校病態病理学講座の山本宗平氏が発表した。

 癌遺伝子であるMET(c-MET)はさまざまな癌において増殖や浸潤、転移、血管新生などに関わっていることが知られている。遺伝性乳頭状腎細胞癌においては活性化変異が100%に見られ、胃癌の5〜10%、結腸癌の4%、大腸癌肝転移の20%、食道癌の5〜10%、非小細胞肺癌の3〜4%に遺伝子増幅が見られるが、卵巣癌とMETとの役割は明らかでなかった。

 そこでまず卵巣癌でMETの過剰発現や遺伝子異常があるかどうか確認するため、卵巣癌201例を対象に解析した。201例のうち90例は明細胞癌で、全ての臨床病期の患者を含めた。111例は進行期(FIGOステージIII/IV)の非明細胞性腺癌で、漿液性腺癌89例、粘液腺癌12例、類内膜腺癌10例だった。

 METの解析方法は、各症例から組織を採取し、MET蛋白異常を免疫染色で、MET遺伝子のコピー数異常はBrightfield double in situ hybridization(BDISH)で行った。免疫染色に使った抗体はVentana社の抗体を、BDISHのプローブはVentana社のプローブを用いた。

 METの免疫染色では、膜全周性に染まらず弱いものを1+、膜全周性に染まる細胞が10%以上を占めるものを2+、強く全周性に染まる細胞が多いものを3+とし、2+、3+をMETの過剰発現例とした。BDISHでは、MET遺伝子が4コピー以上である細胞が40%以上を占める場合をMET遺伝子増幅とした。

 MET蛋白の発現を解析した結果、過剰発現が見られたのは明細胞癌だけで、90例中20例(22%)にMET蛋白過剰発現が見られた。非明細胞腺癌では過剰発現は見られなかった。

 MET遺伝子コピー数異常については、明細胞癌では解析した89例中21例(24%)にMET遺伝子コピー数増幅が見られたが、非明細胞腺癌106例ではわずか3例(3%)にしか増幅例は見られなかった。

 そして、MET過剰発現陰性例ではMET遺伝子増幅陰性例は83%、MET遺伝子増幅陽性例は17%、MET過剰発現陽性例ではMET遺伝子増幅陰性例55%、MET遺伝子増幅陽性例45%で、MET過剰発現とMET遺伝子コピー数異常には強い相関が見出された。

 次に、卵巣明細胞癌におけるMET異常が果たす役割を解析した結果、MET過剰発現例では過剰発現がない例と比べて有意に予後が悪かった。全生存期間に与える予後規定因子について多変量解析を行った結果、独立した予後悪化因子として、FIGOステージIII、IVはI、IIと比べて有意に予後が悪く(RR:5.76、p=0.0011)、低分化型腫瘍組織成分がある場合はない場合と比べて予後が悪く(RR:4.58、p=0.00051)、METの過剰発現がある場合もない場合と比べて予後が悪かった(RR:2.42、p=0.018)。

 山本氏らは最近、予後が悪い卵巣明細胞癌の中でもさらに予後が悪い症例を見出すため、組織分類の解析を行っており、腫瘍にわずかでも低分化型組織成分がある場合、ない場合と比べて有意に予後が悪いことを見出している。

 そこで低分化型組織成分をもつ卵巣明細胞癌21例を解析したところ、52%にあたる11例でMETの遺伝子コピー数異常が検出された。低分化型組織成分が見られない卵巣明細胞癌68例ではMET遺伝子コピー数異常が検出されたのは15%(10例)だった。同じ腫瘍の中でも、高分化型組織においてはMET遺伝子コピー数異常は中程度だったが、低分化型組織においてはMET遺伝子コピー数異常は顕著だった。

 山本氏は、「卵巣癌において、METの過剰発現やコピー数異常は明細胞癌に特異的、高頻度に起こっており、MET過剰発現はMET遺伝子コピー数異常によって起こること、METの過剰発現は卵巣明細胞癌の予後悪化を予測する独立した強い因子であること、MET遺伝子コピー数異常は卵巣明細胞癌の悪性度にかかわることが示された」とまとめ、治療標的としても有効である可能性があると締めくくった。