およそ1万人の癌化学療法実施患者を対象に日本癌治療学会と日本輸血・細胞治療学会による調査研究が行われ、10月24日から26日まで京都市で開催された第51回日本癌治療学会学術集会で、千葉大学呼吸器病態外科の吉野一郎氏らが発表した。癌化学療法後、Hb値が11g/dL以下だった患者の割合は66%だったほか、輸血を考慮するHb値を決めていない施設は40.3%で、7g/dLとした施設が31.6%と最も多いことなどが明らかになった。

 癌化学療法患者のおよそ7割は、癌化学療法に伴う貧血(CIA)を有することが報告されている。癌化学療法後にCIAと診断された場合(腫瘍そのものによる原因や、栄養障害など並存状態によるものを除外)、癌化学療法の休止・中止が必要となる。また、積極的な治療が必要な場合、エリスロポエチン製剤は日本で承認されていないため、鉄剤の投与か赤血球輸血となる。ただし、CIAに対する治療ガイドラインは日本にはなく、また患者の状態などによってHb値が低下していても必ずしも輸血が必須となるわけではないため、どの程度輸血が行われているのか、詳細な情報はない。

 そこで、日本癌治療学会と日本輸血・細胞治療学会は、日本におけるCIAと輸血療法の実態を明らかにすることを目的に、アンケートによる調査を実施した。

 アンケートの対象は、日本癌治療学会の代議員所属施設と日本輸血・細胞治療学会の認定医制度指定施設を中心とした164施設。調査対象は、2010年9月から11月に診療した8つの癌腫(乳、肺、胃、大腸、肝臓、婦人科系、泌尿器系、悪性リンパ腫)から、施設ごとに調査協力可能な癌腫を選択した。

 1次調査では、患者数、非切除患者における癌化学療法患者数、CIAで赤血球輸血を受けた患者、輸血単位数を調査。さらに、CIAで輸血を受けた患者を無作為に抽出して2次調査を行い、癌化学療法前後のHb値、Hb10g/dLまたは8g/dL以下の期間、赤血球輸血の適応、単位数、副作用などを調べた。

 1次調査は65施設(回答率39.4%)、2次調査は57施設中47施設から回答が得られた(回答率87.0%)。

 まず、癌化学療法が行われた9840人中、赤血球輸血が行われたのは736例で、輸血率7.5%だった。悪性リンパ腫患者(1227人)の輸血率が24%と最も多く、胃癌と婦人科系癌、泌尿器科癌が約10%だった。乳癌や肺癌、大腸癌では3〜5%だった。輸血患者1人あたりの平均輸血単位数は5.9。

 輸血を開始するHb値を尋ねたところ、決めていないと回答した施設が最も多く40.3%、8g/dL未満と回答した施設が22.8%、7g/dL未満が31.6%、6g/dL未満が5.3%だった。

 輸血を実施しなかった患者における化学療法前の平均Hb値は11.6g/dL、化学療法後が10.4g/dLだった。一方、輸血を実施した患者の化学療法前のHb値は9.5g/dL、化学療法後は6.9g/dLだった。

 化学療法後にHb値11g/dL以下だった患者の割合は66%、10g/dL以下は45%、8g/dL以下は17%だった。特に、胃癌と婦人科系癌で貧血患者の割合が高かった。

 厚生労働省のがん統計を基に計算したところ、Hb10g/dL以下のCIA患者数は17.2万人、赤血球輸血量は14.6万単位と推計された。これは日本全体における赤血球供給量の2.2%、悪性腫瘍患者に対する使用量の5%程度に相当した。

 2次調査で抽出された1596例の癌化学療法実施患者の11.9%(190例)で輸血が実施されていた。

 全癌腫におけるHb最低値別の輸血の有無では、Hb値が9.0-9.9g/dLではほとんど輸血例はなく、7.0-7.9g/dLまでは輸血なし例の方が多かったが、6.9g/dL以下からは輸血例の方が多かった。ただし、Hb値8.0g/dL未満の患者を対象として解析すると、43%で輸血が行われていなかったとした。

 赤血球輸血の副作用は2.2%(11件)で見られ、乳癌(15.4%)、婦人科系癌(19.2%)で多かった。

 厚生労働省と日本赤十字社がまとめている血液製剤の使用指針では、慢性貧血に対する適応として、「血液疾患ではHb値7g/dL、慢性出血ではHb値6g/dLが目安とし、貧血の進行度、罹患期間などを勘案」としている。そのため、「輸血療法は消極的ではあるが、おおむね適切に施行されていた」と吉野氏は指摘した。