遺伝子カウンセリング後、BRCA1BRCA2遺伝子変異が発見された乳癌または卵巣癌患者を対象に、本人の希望によりリスク低減卵巣卵管摘出術を実施した5例の単施設での検討結果が報告された。手術は全例が腹腔鏡下で安全に施行でき、摘出卵巣卵管および術中腹水細胞診に悪性所見は認めなかった。10月24日から26日まで京都で開催された第51回日本癌治療学会学術集会で、昭和大学産婦人科学教室の清水華子氏が発表した。

 BRCA1、BRCA2遺伝子変異を有する乳癌や卵巣癌は、遺伝性乳癌卵巣癌症候群HBOC)と定義され、卵巣癌については、BRCA1/2遺伝子変異保持者における生涯リスクは8〜62%とされる。また、最初の乳癌が診断されてから10年以内に卵巣癌を発症する割合は、BRCA1変異では12.7%、BRCA2変異では6.8%と報告されている。さらに卵巣癌では、有効な定期検診の方法が確立されていない。

 一方、リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)には卵巣癌発症リスクを85〜90%、乳癌発症リスクを約50%低下させる効果があるとされている。そこで清水氏らの施設では倫理委員会(IRB)の承認を得て、HBOC と診断された患者を対象にカウンセリングを実施し、希望する患者にRRSOを施行してきた。これまでに行った全5例について患者背景、手術経過、術後病理組織所見などを報告した。

 RRSOの対象は、35歳以上のBRCA1/2遺伝子変異陽性者で、今後、挙児希望がない、十分なカウンセリング後の自由意志によりRRSOを希望する、これらすべての条件を満たす患者とした。

 方法は、まず乳癌と卵巣癌患者のうちHBOCハイリスク患者を対象に認定遺伝カウンセラーによるカウンセリングを行い、希望者に遺伝子検査を実施してBRCA1/2変異の有無を確認した。HBOC確定者には、治療の選択肢、代替手段、リスクとベネフィットについて再度カウンセリングを行い、RRSOを希望した患者に対して実施した。

 RRSO施行に伴い、事前の遺伝カウンセリングとBRCA遺伝子検査(自費診療)、骨盤部MRIなどの画像検査(保険診療)、術前検査、RRSO手術に伴う入院費や検査(自費診療)、術後のサーベイランス(保険診療)を行っている。

 原則的にRRSOは、患者に負担の少ない腹腔鏡下で施行することとした。手術では、まず十分な腹腔内の検索を行った。また、腹水から悪性腫瘍が発見されることがあるため、腹水、または腹水がなければ洗浄腹水を採取した。手術では可能な限り卵巣、卵管組織を切除することとした。残存卵巣から癌を発症した例があるため癒着を剥離し、卵巣から2cm以上離して骨盤漏斗靭帯を切除した。子宮全摘の有無で予後に変わりはないが、希望により子宮全摘を行う症例もあった。

 RRSOにより摘出した検体はすべて2〜3mm間隔の標本を作製し、詳細な病理診断を行った。また、RRSO施行後も1〜6%で腹膜癌になる可能性があるため、6カ月から1年毎の定期的な検診を実施した。

 2013年米国NCCNによるガイドラインでは、HBOCの遺伝カウンセリング対象者の規定は癌罹患者と未発症者で異なる。癌罹患者においては、卵巣癌、卵管癌、原発性腹膜癌、子宮内膜癌の一部、男性乳癌がカウンセリング対象となる。そのほか、若年発症(50歳以下)、家系内の遺伝子変異陽性、2つ以上の原発乳癌、トリプルネガティブ乳癌、多臓器癌などが1つでも当てはまる場合にも対象となる。

 HBOCに関する報告は欧米人のものが多く、日本人に関するものが少ないため、カウンセリングでは韓国のデータを用いた。

 例えば、「家族歴のないハイリスク群(758例)におけるBRCA1/2変異率」によると、40歳以下での乳癌発症例のBRCA1/2変異率は8.5%(BRCA1=3.5%、BRCA2=5%)、両側乳癌例では17.7%(5.6%、12.1%)、男性乳癌5.1%(0%、5.1%)、乳癌と卵巣癌50%(16.7%、33.3%)、多臓器癌7.6%(3%、4.6%)で、これら2つもしくは3つ以上該当する例では27.1%(8.9%、15.2%)だった(Byon Ho Son et al,2012, Breast Cancer Res Treat)。
 
 その他、「ほかにリスク要因のない家族歴1人でのBRCA1/2遺伝子変異率」「卵巣癌のない乳癌家系におけるBRCA1/2遺伝子変異率」「卵巣癌家系におけるBRCA1/2遺伝子変異率」など、韓国の報告から相談者にあわせて選択し、それに基づいてカウンセリングを行った。
 
 2013年7月末日までに清水氏らの施設でカウンセリングを受けた人は214例で、そのうち117例が遺伝子検査を受けた。その結果、BRCA1変異症例23例(発端者17例、家族6例)、BRCA2変異症例7例(発端者7例、家族0例)、不明9例(BRCA1:6例、BRCA2:3例) だった。

 HBOCと診断された30例のうち、5例がRRSOを受けた。5例の年齢は、45歳、39歳、43歳、62歳、44歳で、遺伝子変異はBRCA1が3例、BRCA2が2例だった。5例はすべて乳癌罹患者で治療中だった。手術は全例が腹腔鏡下に行なわれ、3例が両側卵管卵巣摘除術、2例が両側卵管卵巣摘除術+子宮全摘術だった。摘出卵巣卵管および術中腹水細胞診のいずれでも悪性所見は認めなかった。

 これらのことから、清水氏らは、HBOCの乳癌または卵巣癌罹患者に対するRRSOは腹腔鏡下で施行できると語った。さらに、オカルト癌検索のための詳細な標本診断が必要であること、術後サーベイランスの標準化、そしてRRSOを希望しないHBOC患者に対する卵巣癌のサーベイランスの検討が今後の課題であると結んだ。