日本人の切除不能進行胃癌におけるKRAS、PIK3CA、BRAF遺伝子変異の頻度と予後との相関を検討した研究で、海外の報告と同様に、これらの遺伝子変異の頻度はまれであることが示唆された。NRAS遺伝子変異は予後不良因子であったが、KRAS、PIK3CA遺伝子変異は予後に影響しなかった。10月24日から26日まで京都で開催された第51回日本癌治療学会学術集会で、国立がん研究センター中央病院の深堀理氏が発表した。

 RAS-RAF-MEK-MAPK pathwayおよびPI3K-Akt pathwayは細胞増殖やアポトーシスに関与する細胞内シグナル伝達経路であり、切除不能進行大腸癌ではこれらのシグナル伝達経路に遺伝子変異を有する症例は予後不良と報告されている。

 進行胃癌におけるこれらの遺伝子変異の頻度についての報告は少数だが、進行胃癌においてKRAS、PIK3CA遺伝子変異が進行胃癌の予後不良因子だとの報告がある(フェーズ2/3のREAL3試験)ことから、深堀氏らは、進行胃癌におけるKRAS、NRAS、BRAF、PIK3CA 遺伝子変異の頻度と予後との相関について検討を行った。

 1995年9月から2008年3月の間に、同施設でバイオマーカー研究に参加した、病理学的に胃癌と診断され胃切除術を施行した適格症例167例をコホートAとした。また、コホートAの中から、ステージ1-3で術後無再発で経過した症例や再発したが化学療法を希望しなかった症例などを除外し、切除不能または術後再発で全身化学療法を受けた進行胃癌患者125例をコホートBとし、両コホートに対してKRAS(exon2、3、4)、NRAS(exon2、3)、BRAF(exon15)、PIK3CA(exon9、20)の遺伝子変異解析を行った 。

 遺伝子解析は、患者のパラフィン検体または新鮮凍結検体から腫瘍組織を採取後、抽出したDNAをPCR法で増幅してDirect-sequence法で行うこととし、これまでに多く検討されている遺伝子変異であるKRAS遺伝子のexon2(codon12、13)、exon3(codon61)、exon4(codon146)、BRAF遺伝子のexon 15(codon600)、PIK3CA遺伝子のexon 9(codon542、545)、exon20、NRAS遺伝子のexon2(codon12、13)、exon3(codon61)を解析対象とした。

 コホートAにおける解析では、遺伝子変異の頻度では、KRAS codon12/13 変異がそれぞれ6例/2例で計8例(4.9%)、PIK3CA exon9/20 変異が8例/1例で計9例(5.5%)、NRAS codon12/13 変異が1例/2例で計3例(1.9%)。KRAS codon61、146、BRAF V600E、NRAS codon61の変異は認めなかった。

 遺伝子変異の有無と患者背景との比較においては、KRAS codon 12/13 変異では高-中分化腺癌の頻度において有意差が示された(p=0.03)。KRAS codon12/13野生型、PIK3CA exon9/20、NRAS codon12/13 においては年齢、性別、ECOGPS、転移臓器、転移臓器箇所数などの患者背景との間に相関はみられなかった。

 次に、コホートB における全生存期間中央値を算出し、単変量解析・多変量解析を用いて患者背景や遺伝子変異の有無と予後との相関を検討した。

 コホートB(125例)の患者背景は、年齢中央値63歳、男性95例/女性30例、ECOG PSは0/1/2がそれぞれ36.8/61.6/1.6%、組織型は高-中分化腺癌/乳頭腺癌が40%、低分化腺癌・印環細胞癌が56.8%、転移個数1個は76%、2個以上は24%、転移箇所ではリンパ節が58.4%、腹膜32%、肝臓25.6%が主な部位だった。

 また、患者に施行された化学療法の内容は、5-FU(24%)、CPT11/CDDP(33.6%)、TS-1(31.2%)など、現在の標準的レジメンとは若干異なることが指摘された。また、患者の約75%が1次/2次治療として治療を受けていた。

 患者背景ごとの予後因子について、多変量解析によると、PSが1以上(p=0.015)、遠隔転移数が2個以上ある患者(p=0.023)では有意に予後が不良だった。

 コホートBにおけるKRAS、PIK3CA、BRAF遺伝子変異と予後因子解析によると、NRAS codon12/13 変異は有意に予後不良(MST:14.7カ月対9.4カ月、p=0.011) であり、単変量解析(ハザード比:4.24、p=0.014、95%信頼区間:1.30-13.8)、多変量解析(ハザード比:5.61、p=0.006、95%信頼区間:1.64-19.2)共に予後不良因子であることが示された。

 一方、KRAS codon12/13 (MST:13.2 vs. 15.7カ月、p=0.775)とPIK3CA exon9/20(MST:13.6カ月対9.4カ月、p=0.286)の変異と予後に相関は認めなかった。

 これらの結果から、深堀氏らは、日本人の切除不能進行胃がんのKRAS、PIK3CA、BRAF 遺伝子変異の頻度は稀で、海外の報告とほぼ同様であったとし、「NRAS遺伝子変異のみ予後不良因子と考えられたが、KRAS、PIK3CA 遺伝子変異は予後不良因子とならなかった。また、少数例での検討であり、化学療法の内容が現在と異なるなど、解釈が必要である」と締めくくった。