癌の骨転移が判明した段階で患者を登録し、骨関連事象(SRE)のリスク評価とSRE予防のための骨修飾薬投与、予防的放射線療法を行うことで、脊椎転移による麻痺の発生を抑制できることが示された。四国がんセンター整形外科の中田英二氏は、こうした骨転移例を登録し、早期から介入する骨転移患者対策システムを構築しており、その効果を、10月25日から横浜市で開催された第50回日本癌治療学会で発表した。

 近年、癌の予後改善に伴い、骨転移によるSREは増加傾向にあるが、多くの場合、SRE出現後に担当科より整形外科に紹介され、初めて骨転移の検査や治療が開始されるケースが多い。この方法では、その後の骨転移患者の日常生活動作(ADL)を保つのは困難だった。

 このため四国がんセンターでは、骨転移に対する治療戦略として、2009年10月より乳癌を対象に、また2012年4月からは全癌腫に広げて骨転移対策システムを導入した。

 この骨転移対策システムは、まず骨転移が判明した段階で、SREリスク評価に基づいて分類する。低リスクと分類された患者ではSREのための診察は不要で画像検査などで経過観察するが、高リスク例には定期的なMRIや骨シンチなどによるスクリーニング、および患者指導(パンフレット配布、転倒予防、症状出現時の医師への連絡など)を実践する。骨修飾薬投与などによるSRE予防とともに、硬膜外腔浸潤がある場合などSRE発生リスクが高い場合、無症状でも予防的放射線療法を行うなどの集学的治療を行う。また、骨転移が判明した段階で看護師や理学療法士、作業療法士にSRE発生リスクを伝え、臨床所見観察を指示するとともにSREが疑われた場合、連絡する体制としている。

 近年、SRE発生ハイリスク例を定期的に脊椎MRI撮影し、麻痺リスクのある脊柱管内腫瘍浸潤を認めた場合、無症状でも予防的放射線療法を行うSMaRT(Screening of MRI and Prophylatic Radiotherapy)の有効性が報告された。また、原発科が定期的なフォロー目的で撮影したCTなどの画像検査で、麻痺リスクのある脊柱管内腫瘍浸潤を認めた場合、無症状でも予防的放射線療法を行うものを中田氏らはRESaRT(Regular Scanning and Prophylactic Radiotherapy)と名付け、診療に組み込んでいる。

 今回、乳癌骨転移のSRE発症率とそのリスク因子から作成したSRE発生のスコアリングシステムについてまとめた結果を、中田氏らは報告した。また、骨転移対策システムにより、骨転移に対して体系的、集学的な治療を行うことで、脊椎転移による麻痺が予防可能かを検討した。

 研究では、2009年10月から2012年9月までに登録された乳癌患者267例と、2012年4月から9月までに登録されたその他の癌患者105例を対象に、SMaRT/RESaRTによる予防的RTの施行数、麻痺発生数、さらに、乳癌骨転移のSRE発生数とそのリスク因子を画像や腫瘍マーカーの経過に基づき同定した。

 その結果、乳癌骨転移のSRE発生数は46例(23%)、そのうち脊椎が40例(20%)で最も多かった。SRE発生のリスクファクターとして、単変量解析では、年齢、臓器転移の有無、血清LDH、ALP、SREの既往の有無、骨転移数、骨転移期間、脊椎転移数(頸椎、胸椎、腰椎)、CA15-3、CEAなどが見いだされた。多変量解析では脊椎転移数2個以下の症例に対して、3〜19個の症例ではオッズ比が3.7、20個以上では5.7となった。また、CEA値の正常値は5ではあるが、4未満に比べて4以上の症例においてオッズ比は3.2で、これらは有意なリスク因子であると考えられた。

 この2つのリスク因子をもとにSRE予測発生率を求めたところ、脊椎転移数2個以下、3-19個、20個以上と3グループについて、CEA値が4未満であれば、それぞれ5%、14%、23%、CEA値が4以上の場合、それぞれ15%、36%、50%だった。これにより脊椎転移数20個以上かつCEA値が4以上の患者では、約半数にSREが発生することが明らかになった。

 脊椎転移数について、2個以下を0点、3〜19個を1点、20個以上を2点、そしてCEAが4未満を0点、4以上を1点とし、0〜1点を低リスク、2点を中リスク、3点を高リスクとし、乳癌骨転移のフォロー方法として、低リスクは診察、MRIなどは不要で、中リスクは診察とともに必要時にMRI評価すべきとした。高リスクは診察とともに脊椎MRIを定期的に撮影し、必要に応じて予防的放射線療法を行うとよいと提案した。

 同センターでは、乳癌患者267例のうち、SMaRT/RESaRTが各7例に施行された。その結果、対策システム導入当初に脊椎SREが1例見られたが、その後は全例放射線療法でコントロールできており、重篤な麻痺は認められなかった。乳癌以外の癌においても2012年4月の対策システム導入後、6例がRESaRTにより予防的放射線療法を受け、導入前は年間5〜10例程度、重篤な麻痺例があったが、導入後は重篤な麻痺は見られなかった

 中田氏らは現在、画像(造影PET/CT、MRI、造影CT、骨シンチ)やNTx、CEAといったマーカーなどを用いているが、検査モニタリングに最適な検査の選択およびタイミングの特定が今後必要とされるとする一方、「骨転移に対する登録システムは、骨折や麻痺の発生が抑制でき、有用であると考える。今後、このデータから判明したSRE発生リスク因子を用いて、SRE発生リスクの予測やより効率的なシステムが確立できる可能性がある」とした。

 また、SREに対する早期診断・早期治療を目指すこのシステムでは、画像検査の読影結果から放射線科医が高リスク患者を抽出し、所見記載や整形外科への電話連絡をする。そのため各科の相互コミュニケーションを円滑にする伝達システムを構築することも重要なポイントであると指摘した。