臨床試験は組み入れ条件を満たした患者を対象に行われるが、日常診療において治療の対象となるのは、臨床試験で除外されるような患者、たとえば高齢者や全身状態が不良の患者などが多い。今回、慶應義塾大学泌尿器科学教室の金子剛氏らは、同科でチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の投与をうけた転移性腎細胞癌患者を70歳以上と70歳未満に分けて、投与量、効果、有害事象の発生率などを比較し、ほぼ全てにおいて有意差は見られないことを報告した。10月25日から横浜市で開催された第50回日本癌治療学会で発表した。

 実診療では、腎細胞癌患者の25%以上が70歳以上で、それらの患者は平均3つ以上の併存疾患を有し、予備能が乏しいとされる。そこで、金子氏らは、同院で転移性腎細胞癌に対してファーストライン治療としてTKIを投与した全ての腎細胞癌症例(51例)を70歳以上と70歳未満にわけて、患者背景やTKIの有効性、安全性などを評価した。

 51例のうち、70歳以上は18例(スニチニブ10例、ソラフェニブ8例)、70歳未満は33例(スニチニブ22例、ソラフェニブ11例)だった。

 70歳以上群には基礎疾患(肺疾患、心疾患、糖尿病など)を持つ患者が多く、Charlson併存疾患スコアは有意に高かった(10.6と7.7、p<0.001)。しかし、MSKCCリスク分類も含むそれ以外の患者背景には差は無かった。

 治療開始時の用量は、70歳以上群の方が低かったが、治療開始3カ月後の相対用量強度に有意差は見られなかった(70歳以上64.5%:70歳未満67.7%、p=0.633)。

 全症例を対象とした無増悪生存期間(PFS)中央値は589日で、スニチニブ投与グループとソラフェニブ投与グループの間でPFSに差はなかった。次に、70歳以上群と70歳未満群を比較検討した結果、無増悪生存率に有意差は見られなかった(p=0.986)。

 グレード2以上とグレード3以上の有害事象の発生率を比較したところ、いずれも有害事象の発生率は70歳以上群と70歳未満群の間で差は認められなかった。グレード2以上の血液毒性は70歳以上群の66.7%、70歳未満群の66.7%に(p=1.000)、非血液毒性は66.7%と72.7%に見られた(p=0.650)。グレード3以上の血液毒性は27.8%と39.4%(p=0.407)、非血液毒性は27.8%と30.3%に認められた(p=0.850)。
 
 ただし、グレード3以上の有害事象を経験した全例(15例)のうち、70歳未満については全員が、全身状態改善後に減量してTKIの投与を再開、または第2選択、第3選択薬の投与を受けることができていた。しかし70歳以上群では、消化管出血を経験した2例が、内視鏡的止血後、ベストサポーティブケアに移行していた。

 多変量解析を行った結果、MSKCCリスク分類におけるPoorリスクは、転移性腎細胞癌に対するファーストライン治療としてのTKI加療の際の進行を予測する独立した因子であることが見いだされた。

 これらの結果から、金子氏は、TKI治療開始時の用量は70歳以上群に比べて70歳未満群は低用量だったものの、3カ月間の相対用量強度に有意差は認められなかったことと、両群間の無増悪生存率に有意差は無く、有害事象の発生率にも差は見られなかったとし、70歳以上の高齢者と70歳以下で投与量、有害事象発現頻度、治療効果は同等だったとまとめた。ただし、高齢者群において、重篤な非血液毒性によりベストサポーティブケアに移行した症例を経験したことから、有害事象の発生を抑制する投与量や投与スケジュールの確立が求められるとした。