第49回日本癌治療学会学術集会が20月27日(木)〜29日(土)の3日間にわたって名古屋国際会議場で開催される。今回はがん種や診療領域を網羅した14のシンポジウム「JSCO university」やがん医療の課題の克服のために担うべき日本癌治療学会の役割を問い直す特別企画シンポジウムが開催される。企画の意図を会長の西山正彦氏に聞いた。


――第49回日本癌治療学会学術集会のテーマが「Visionの共有 目標への第一歩」ですね。これの意味するところは何でしょうか。

西山 癌診療に関しては、多くの学会が国内にはあります。学会間でお互いに競うことは大切ですが、それが対立関係にはなることは、良いことではありません。「病気としての癌を葬ること」が最終ゴールですから、そのゴールに向かって皆で力を合わせましょうというメッセージをこめました。個々の学会が持つ知識とノウハウを持ち寄れば、他の診療領域の先生方にとっても大きなメリットになるはずです。

──癌関連学会の知識や技術を集約する場としての学会ですね。

西山 それを具体化する試みが特別学術プログラム「JSCO University」です。癌関連学会のそれぞれが、情報を集約して、独自の研究、臨床の場で研鑽しているわけです。それらのエッセンスを紹介し、各現場からの視点から議論してもらおうということです。

 国内外の当該領域専門学会のご推薦をいただいた専門家により最先端のレビューをしていただきます。それをもとに癌医療の開発研究の方向性、本邦の果たすべき役割を議論していただく。世界にはBest of ASCO,Best of ESMOがありますが、これにBest of JapanやBest of Asiaをくみ合わせた密度の高いプログラムになったと思っています。

トランスレーショナルリサーチの課題

――癌医療ではアカデミアで行われている研究をどのように臨床につなげるかも重要な課題です。多くの人的資源、資金が投じられていますが、実用化に結びつくための障害の大きさが問題になっています。

西山 癌医療は急速に進歩しています。ゲノムの解析技術が爆発的に進んだこともあって、癌医療のパラダイムも大きく変化しています。既存の治療で手詰まりだったものが、新しい新薬や新しいバイオマーカーの発見によって治療成績が飛躍的に伸びる例も出ています。基礎研究の進歩が臨床を劇的に変える可能性も出てきています。
 
 一方で、現在新薬開発のハードルも高くなっています。日本では新薬1つに100億円の開発費用がかかるといわれてきましたが、米国では1000億円ともいわれはじめています。「日本でアカデミアがトランスレーショナルリサーチを始めなさい」といわれても、投じることができる開発費は10億円が上限です。

 アカデミアの中で新薬の開発を完遂することはできない以上、製薬会社にバトンタッチする、一緒に研究を進めることが必要になりますが、そこにたくさんの問題があります。基礎研究の多くは血税によってまかなわれているわけですから、いまトランスレーショナルリサーチの分野でどのような成果があがっているのかを国民に周知しなければなりません。そういうことも学会の責務だと思って、「アカデミア発がんトランスレーショナルリサーチ」を日本癌学会、日本臨床腫瘍学会、日本がん分子標的治療学会と日本癌治療学会の共催で開催します。

データベースやがん取扱基準の討議

 一方で、パイプラインにのっている新薬候補の数もうなぎのぼりです。800以上の化合物が癌の臨床試験段階にあるといわれています。こうした薬剤の評価を合理的にしかも迅速に行うためにはどうしたらいいのか、臨床現場に投げかけられた大きな課題です。また多くの研究成果を集約するデータベースの整備も進んでいますが、それを維持管理していくためには、これまでのアカデミア研究とは異なった方法論や研究資源の活用が必要になります。こうした問題を話しあってもらうために、特別シンポジウムとして「治験段階にある新規薬剤」「本邦の医療情報環境の現状と課題:データベース構築と情報サービス」を開催します。また同様の問題意識からDebate Sessionでは、「病理から:がん取り扱い規約の統一化は必要ないか」「医師主導方治験の可能性と問題点」などにも注目してもらいたいと思います。

――病理の問題は古くて、新しい問題ですね。

西山 日本は大変まじめな国で、すべての癌についてどうやって記述するか、どうやって検索するかが癌取扱規約で決まっています。ところが胃と食道で用語が統一されていなかったり、基準が統一されていなかったりするという側面もあります。でも国際性や利便性を考えるとある程度の範囲で統一していく必要があるかと思いますが、その方針が正しいのか、そのためのアプローチをどうすればいいのかを討論していただきます。

ESMOと協力して教育に注力

――日本癌治療学会も国際化の動きが加速しているようですね。

西山 国際シンポジウムとしては「ESMO-JSCO cooperation for education of oncology professionals and patients:Possibility and Obstacles」があります。ESMOと協力して日本癌治療学会が進めていきたいテーマが教育です。ESMOには文化も経済力も医療体制も異なる多数の国々が参加していますが、そうした多様な国々をまとめて運営しているということは大変なことだと思っています。日本は均一だといわれていますが、必ずしもそうではないことを考えるとESMOから学ぶことは多いはずです。

――アジア向けのガイドラインについても議論されますね。

西山 Asian sessionに「NCCN guideline in Asia-Practical significance and issues」があります。米国の癌治療の専門病院が中心になって作成しているNCCNガイドラインは世界中で使われているガイドラインの1つですが、アジアからのエビデンスがあまりないんですね。同じ癌でも薬剤反応性に人種間差があることがわかっていますので、アジアで認められたエビデンスをもとに見直そうというのが目的です。そのためには、質が高い臨床研究を行う必要があるわけですが、日本単独でそうした臨床研究を組むことができない癌もたくさんあります。そこで、Asian sessionで「Development of cancer treatment in Asia-the latest status and obstacles toward the goal-」を、特別企画シンポジウムで「Mega-clinical trial in Pan-Asia:Toward the Gold standard therapy in Asia」を開催します。

 今大会は年々参加者が増え、規模も大きくなっています。今回は会場の制約などから演題数を絞らざるを得ず、過去最高ではありませんがそれでも指定演題を含め2300にのぼります。3日間の討議を通して、日本と各国、あるいは医療スタッフ同士、医療スタッフと患者、さらには国民と行政などの間でVisionを共有し、癌を克服するという最終ゴールに向けての一歩を踏み出す場となることを願っています。