癌患者の経済的負担が増加する背景には癌医療の高額化があり、経済的な理由で治療を中止・変更した患者は約3%、4.5万人に上るとみられている。このような「癌の経済難民」の現状と経済的負担の最小化を図る方策について、10月28日から30日にかけて京都市で開催された第48回日本癌治療学会学術集会(JSCO2010)で、東北大学の濃沼信夫氏が発表した。

 2002年から2007年の癌医療費の伸びは21.7%で、国民医療費の伸びの10.3%と比較すると2倍となる。一方で、国民所得の伸びは2003年から2008年の間にわずか1.8%であり、収入が増えない状況で支出が増加していることになる。高額療養制度の利用は、2007年の53%から2010年には96%に増加し、現在では不可欠な制度となっている。

 濃沼氏らは、患者の経済的負担の実態を明らかにし、負担を最小化するための方策を検討した。全国の癌診療施設において、これまでに約1万8000人の患者の協力を得て、領収書や家計簿を見ながら具体的に支出額を記入してもらう調査を実施した。

 その結果、6604人(平均63.3歳)の患者における自己負担額の平均は101万円だった。直接費用としては、入院52万円(該当割合74%)、外来18万円(同100%)、交通費5万円(同94%)だった。間接費用としては、健康食品・民間療法22万円(同57%)、民間保険料25万円(同85%)、その他14万円(同43%)であった。

 一方、償還・給付額は平均62.5万円だった。内訳は、高額医療費28万円(該当割合53%)、医療費還付9万円(同23%)、民間保険給付102万円(同45%)であった。

 1万8000人の患者における自己負担額と償還・給付額を治療法別にみると、化学療法を受けた1150人では133万円と75万円、分子標的治療を受けた59人では125万円と74万円、粒子線治療を受けた388人では420万円と116万円だった。

 患者の自己負担額の年間総額は、直接費用が4610億円、間接費用が3453億円と推計される。調査の結果、経済的な理由で治療を変更・断念した患者は約3%に上った。継続的な受療者が152万人とすると、4.5万人が癌の経済難民に該当するとみられる。

 患者の経済的負担の最小化を図り、癌の経済難民を出さないようにするために、濃沼氏は次の3つのレベルでの方策をあげた。1つは「臨床現場での配慮」で、検査・投薬・入院の適正化や外来化、在院日数の短縮、費用の十分な説明などが含まれる。また「現行制度の運用の工夫」として、高額療養費の限度額引き下げ、保険適用・適応拡大の迅速化が貢献すると考えられる。さらに「医療制度の抜本改革」として、負担軽減から無料化、優先度に応じた資源投入(トリアージ)を行うことが考えられる。

 濃沼氏は、「この3つのレベルにおいて、考えられることは全て行うことが必要」と話した。