肺癌診療ガイドライン(日本肺癌学会編)は、2010年度版に続き、新たに2012年度版の作成が進められている。IV期非小細胞肺癌(NSCLC)では治療の進歩が著しく、新しいガイドライン(案)ではより日常臨床に沿ったものとするため、さまざまな改訂が行われている。4月20日から22日まで神戸市で開催された第52回日本呼吸器学会学術講演会で、静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科の山本信之氏が、2012年度版におけるIV期NSCLCのファーストライン治療について、重要な改訂点を解説した。

 2012年度版では、MINDS推奨グレードに従って推奨グレードが変更される。2010年度版までの推奨グレード「C 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」は、2012年度版からは「C1 科学的根拠はないが、行うよう勧める」と「C2 科学的根拠はなく、行わないよう勧められる」に分けられる。

 治療の進歩が著しいIV期NSCLCに関して、2012年度版の作成においては、より日常臨床に沿ったものにするため、第III相試験などの文献の他、治療リスクに関する重要な文献、論文化されていない重要な学会報告も採用された。

 山本氏は、2012年度版におけるIV期NSCLCのファーストライン治療に関する改訂点の中から、(1)分岐点の因子と順番、(2)ALK遺伝子転座陽性、(3)高齢者治療、(4)維持療法について解説した。

 (1)の分岐点の因子と順番については、2010年度版では最初にEGFR遺伝子変異の状態で分類し、次に組織型で分類し治療法を選択することとなっていた。2012年度版ではまず組織型で分類し、非扁平上皮癌と診断された場合のみ、EGFR遺伝子変異またはALK遺伝子転座の検索を行うよう変更される。

 変更理由の1つは、日本人の肺腺癌では71%にdriver mutation が認められるが、ほぼ腺癌にしか見当たらないことだ。また、2種類のdriver mutationに対する分子標的薬が臨床導入されるようになったが、driver mutationを治療方針の選択肢の最初にすると、現時点の体制では治療導入までの時間・コストがかかる。さらにEGFR-TKIの効果は扁平上皮癌と非扁平上皮癌で異なる可能性がある。新しいガイドラインでは、扁平上皮癌ではEGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座の検索を必須としないとされ、「ただし、進行期症例では組織診断の確定が困難であることも多く、そのような場合にこれらの検索を行う必要性が否定されるものではない」と記載される。

 (2)のALK遺伝子転座陽性については、2012年度版からクリゾチニブが使用可能な薬剤として記載される。
 
 ALK遺伝子転座陽性で治療歴がある患者が対象の大半を占めたクリゾチニブの第I相試験では、奏効率57%、6カ月時のPFS72%と報告され、その後も同様の成績が示された。現在、ファーストライン治療を含む2つの第III相試験が進行中だ。ファーストライン治療でのエビデンス、第III相試験の結果が得られていない状況であるが、NCCNの最新のガイドラインではALK遺伝子転座陽性例に対して推奨された。日本でも今年3月30日、ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発のNSCLCに承認され、米国同様、使用する治療ラインに制限は設けられていない。
 
 山本氏によると、こうした状況下でのガイドラインの作成は議論の的であったという。レトロスペクティブな解析で、ALK遺伝子転座陽性でセカンドライン治療以降にクリゾチニブを使用した患者の生存期間中央値(MST)が非使用の患者の約3倍となったこと、OSはEGFR遺伝子変異陽性の患者にEGFR-TKIを使用した場合と同様だったことなども考慮され、非扁平上皮癌でALK遺伝子転座陽性の場合は「クリゾチニブ単剤も選択肢となるが、1次治療における十分なデータはない(C1)」とされることとなった。
 
 ただし、クリゾチニブの使用経験は日本だけでなく世界でもまだ少ないことを十分考慮する必要がある。主な有害事象として、間質性肺炎、肝機能障害、QT延長、血液障害、男性の性機能障害などが報告されている。
 
 (3)の高齢者治療については、第3世代抗癌剤単剤が推奨され(グレードA)、またカルボプラチン併用療法も選択肢と考えられる(グレードC)とされる。
 
 (4)の維持療法については、2010年度版では推奨されていなかった。当時はswitch maintenanceのエビデンスしかなく、日本と欧米の医療環境の差が考慮されたためである。しかし、国内外の臨床試験において、セカンドライン治療を受ける患者の割合が同様であること、continuation maintenanceでPFS、OSが改善する可能性が示され、エビデンスが集積されてきたことから、2012年度版では非扁平上皮癌にはグレードC1で推奨されることとなった。扁平上皮癌では根拠が乏しく、グレードC2とされる。
 
 山本氏は「組織型と遺伝子変異の順を逆にしたことで、一見すっきりしたガイドラインに見えるが、それぞれの分岐における治療選択肢の幅は広くなった。日常臨床では個々の患者さんに合った治療法を選択し、還元していただきたい」と話した。