COPD合併肺癌の周術期呼吸ケアについてのレビューから、術前呼吸リハビリテーションについては、標準化とその利益を証明する良質な臨床試験が必要と考えられた。4月20日から22日まで神戸市で開催された第52回日本呼吸器学会学術講演会で、東京医科大学茨城医療センター呼吸器内科の中村博幸氏が解説した。

 呼吸ケアは、対象疾患に対する予防、患者教育、栄養療法、呼吸筋トレーニングおよび運動療法などの呼吸リハビリテーションに加え、酸素療法、薬物療法などすべてを包括した概念である。
 
 中村氏は周術期呼吸ケアについてレビューを行い、呼吸リハビリテーションに関しては4件の試験を紹介し、今後の課題を示した。運動耐容能の低下はCOPD合併肺癌患者の外科手術の重要な制限因子であり、境界域にある運動耐容機能の改善は臨床的な有用性につながると考えられる。

 COPD合併非小細胞肺癌葉切除の患者12人を対象として、短期間の術前呼吸リハビリテーションが運動耐容能に与える影響を検討した前向きの観察研究(エビデンスレベル2b)では、吸気筋トレーニングなどを4週間行った。その結果、最大酸素摂取量は13.5mL/kg/分から16.3mL/kg/分に改善した(p<0.01)。短期間の術前呼吸リハビリテーションが運動耐容能を有意に改善することが示された(Bobbio A, et al. Eur J Cardiothorac Surg 2008;33:95-98)。
 
 術前・術後の吸気筋を強化するトレーニングがCOPD患者32人の術後の吸気筋力、術後肺機能に与える影響を検討した前向きの無作為化比較対照試験(エビデンスレベル1b)では、2週間のトレーニングを行った群の最大吸気圧(PImax)はベースラインで66.0±2.8cmH2O、トレーニング開始から2週間後で69.5±2.4 cmH2O(p=0.004)、術後3カ月時は81.2±3.5 cmH2Oに上昇した(p=0.0001)。これに対し、トレーニングを行わなかった群では不変だった(Weiner P, et al. J Thorac Cardiovasc Surg 1997;113:552-557)。
 
 術前1週間の呼吸リハビリテーションの在院日数、術後合併症への効果を検討した無作為化比較対照試験(エビデンスレベル1b)では、対象19人に吸気筋のトレーニングなどを行った。その結果、胸腔ドレーンの挿入日数が7日を超えた患者は、リハビリテーションを行った群で1人(11%)、対照群で5人(63%)となり、有意に短縮された(p=0.03)。胸腔ドレーンの平均挿入日数はそれぞれ4.3日と8.8日だった(p=0.04)。また、平均在院日数はそれぞれ6.3日と11日で、リハビリテーションを行った群で短縮する傾向がみられた(p=0.058)。術前1週間の短期間の呼吸リハビリテーションでも術後経過に好影響がみられた(Benzo R, et al. Lung Cancer 2011;74:441-445)。
 
 外科切除の適応にも関わらず、低肺機能のため切除を断念せざるを得ない肺癌患者への術前呼吸リハビリテーションの効果を検討したパイロット試験(エビデンスレベル2b)では、対象8人に自転車やトレッドミルなどによる呼吸リハビリテーションを4週間行った。6分間歩行距離(6MWD)は47.4%改善し(p<0.05)、努力性肺活量(FVC)は0.44Lの増加で予測値に対し12.9%の改善となり、動脈血酸素分圧(PaO2)は7.2mmHg改善した(p<0.01)。その結果、全例で外科切除が可能となった(Cesario A, et al. Lung Cancer 2007;57:118-119)。
 
 しかし、これらの試験における術後肺合併症(PPC)の発生率は、術前呼吸リハビリテーションを行った群と行わなかった群で差がない、もしくは行った群で高く、術前呼吸リハビリテーションがPPCを低下させるというエビデンスは得られなかった。
 
 中村氏は、研究デザインの問題、無作為化比較対照試験が少ないこと、サンプルサイズが小さいこと、呼吸ケアの内容・強度・期間がさまざまで統合的な評価が困難である点を指摘。今後、呼吸リハビリテーションの標準化とその利益を証明する良質な臨床試験が必要である。

 さらに今後の試験で検討が必要な課題として、中村氏は、「術前術後の呼吸リハビリテーションは周術期の肺合併症や死亡率を低下させるか」「術前呼吸リハビリテーションは呼吸機能の面などで外科手術の対象とならなかったものを手術可能とすることができるか」「呼吸リハビリテーションは外科切除の対象とならないものにどのような役割を果たせるか」をあげた。