分子標的治療薬や生物学的製剤などの開発に伴い、薬剤性肺障害が増えていることから、日本呼吸器学会では薬剤性肺障害の診断と治療について、「手引き」として改訂を進めている。抗悪性腫瘍薬の改訂ポイントに関し、日本医科大学内科学講座の弦間昭彦氏が、4月20日から神戸市で開催された第52回日本呼吸器学会学術講演会のガイドラインセッションで発表した。

 日本呼吸器学会では、2006年4月に「薬剤性肺障害の評価、治療についてのガイドライン」を発刊している。その後、間質性肺炎のマーカーや感染症の診断方法の進歩によって、薬剤性肺障害の診断能が向上したこと、また新薬が数多く上市されたことから、薬剤性肺障害の報告は増加傾向にある。これらを背景にガイドラインの改訂が行われたが、薬剤性肺障害は大規模な無作為化試験ができにくいため、「ガイドライン」ではなく、今回は「手引き」とされた。

 抗悪性腫瘍薬に関する最も大きな変更点は、掲載薬剤数が増加したことだ。殺細胞薬ではペメトレキセドやS-1、オキサリプラチンなどが追加され、13薬剤から24薬剤になった。サイトカインでは1薬剤(IFNのみ)から2薬剤(IL-2を追加)に増えた。分子標的薬は2薬剤から17薬剤に変更され、エルロチニブ、ボルテゾミブ、セツキシマブ、ソラフェニブ、エベロリムス、テムシロリムスなどが追加された。

 分子標的薬における肺障害については、「開発のグローバライゼーションによって、日本人での治験症例が減少している」こと、さらに「人種差があって、頻度の低い有害事象」では、規模の大きい施設での全例調査が正確で十分量の情報になることから、「全例調査を基に全面的に書き換えた」とした。

 全例調査からは、各薬剤における薬剤性間質性肺炎の頻度や予後、リスクファクター、あるいは各薬剤での肺障害の特徴などの情報が得られ、それらを「手引き」に盛り込んだ。

 例えばベバシズマブでは薬剤性肺障害の発現率は0.37%、死亡率は20%、セツキシマブでは発現率は1.2%、死亡率は41.7%、パニツムマブでは発現率は1.10%、死亡率は36.8%となっている。

 mTOR阻害剤での間質性肺疾患も頻度が高いことが問題になっているが、ほとんどが軽度で、治療継続で消失した例もあり、「従来の間質性肺疾患の概念とは異なる事象」であるという。

 またエルロチニブでは、治癒切除不能な膵癌への効能・効果が追加され、ゲムシタビンとの併用が承認されたが、国内フェーズ2試験の間質性肺疾患の発現率が8.5%と、非小細胞肺癌の国内フェーズ2試験の4.9%(全例調査では4.5%)に比べて高い。このため膵癌では「臨床試験と同レベルの安全対策が必要」とされ、がん診療連携拠点病院・特定機能病院のうち、施設要件および医師要件に合致し、かつE-learningの修了などの条件を満たした場合のみ、使用が可能になることが、手引きにも記載される。
 
 なお今回の手引きには記載されないが、ALK阻害剤であるクリゾチニブでは、ALK遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌において、肺臓炎が1人報告されていることも弦間氏は付け加えた。

 薬剤性肺障害の管理には、「手引き」を活用し、各薬剤での事象について理解すること、また早期発見のため、患者に乾性咳や呼吸困難など発現する可能性のある症候を説明し、発現時の状況伝達方法を具体的に理解してもらう工夫をすることが大切であるとした。さらに薬剤性間質性肺炎の診断は難しいため、「呼吸器専門医と担当領域の医師との連携体制を構築しておくことが必要」と弦間氏は述べた。