進行肺癌患者における呼吸困難感のキードラッグはオピオイドであり、抗不安薬ステロイドを効果的に併用し、非薬物的アプローチも併せて行うことでコントロールは可能と考えられる。進行肺癌における症状緩和と患者支援について、6月12〜14日に東京都で開催された第49回日本呼吸器学会学術講演会のシンポジウムで、帝京大学医学部内科学講座緩和医療科の有賀悦子氏が解説した。

 呼吸困難感は患者の主観的症状で、「呼吸時の不快な感覚」と定義され、多要因である。有賀氏のもとには、病棟から「PO2は低下していないが呼吸困難感を訴えている。心理的な問題か」といった相談が寄せられることもあるという。

 機械受容器(Mechanoreceptors)が刺激などを受けたことにより呼吸困難感が増悪する病態もあるほか、胸郭内に癌が増大し、疼痛で胸郭運動が制限されたり、肺胞内に癌細胞が浸潤して肺胞の伸展が妨げられたりする場合や、腹水が大量に貯留して横隔膜が下方伸展できない場合にも、呼吸困難感が出現する。

 その他、胸水、心不全、貧血、肺炎、筋力低下、COPD、肺塞栓、腹水や重度の便秘などによる腹部膨満なども原因となる。さらに、心理社会的な問題も関与する。また、疼痛コントロールが不十分な場合にも呼吸困難感を呈することがある。したがって、「包括的に患者の症状を観察していく必要がある」と有賀氏は話した。

 呼吸困難感への対処には原因治療と症状緩和を併行する。症状緩和を目的とするアプローチには、薬物的アプローチと非薬物的アプローチがある。

 薬物的アプローチのカギになるのはオピオイドで、全身投与のエビデンスがあり、推奨されているのはモルヒネである。臨床では、フェンタニルやオキシコドンで呼吸困難感がある程度改善される場合もあるが、これは、オピオイドのドパミン作用による抗不安作用によるものと推測される。臨床でモルヒネを使用する際は、頻呼吸の患者に対して、呼吸数が20回/分程度になるよう徐々に増量する。このような治療用量では、酸素飽和度の低下やEtCO2の上昇、呼吸抑制などはきたさない。

 また、ネブライザーによるモルヒネやフェンタニルの投与でも効果が得られるとの報告がある。抗不安薬、ステロイド、気管支拡張薬などもアプローチの選択肢に含まれる。

 非薬物的アプローチには、酸素投与に加え、環境面の整備や食事の形態の調整などがある。室温が低めでゆっくりとした風を顔に感じられる状況は呼吸困難感の緩和につながるとされ、三叉神経、顔面神経などの関与が考えられている。

 有賀氏は現在診療中の症例を紹介した。

 患者は75歳前後。肺腺癌で、PS 3、慢性心機能障害と慢性腎障害がある。肺癌の診断を受けた際、心機能障害が指摘され治療が行われたが、左室駆出率35%以下、血清クレアチニン濃度3.0mg/dL以上という状況は変わらなかった。

 胸部CTでは、右下葉に5cm程度の腫瘤陰影を認め、癌性リンパ管症の可能性も考えられた。リンパ節転移を認め、近接する気管支は閉塞し、末梢側にも閉塞性変化がみられた。さらに50年の喫煙歴から肺気腫も認められた。化学療法は施行せず、在宅療法に移行することとなった。

 在宅医療での初診時、呼吸困難感は安静時でNumeric Rating Scale(NRS)6〜8/10、咳嗽や痰、食欲不振を認めた。有賀氏は、将来的にモルヒネが必要になると考え、血清クレアチニン濃度を低下させることを試みた。内服薬をそれまでの約20種類から9種類に整理すると、同値は3.0mg/dLから1.94mg/dLに低下した。

 現在、1週間ごとに訪問診療が行われている。初回訪問時には、胸部疼痛に対しアセトアミノフェン600mgを分3で処方した。合併症が複数あることから、薬剤は通常の1/2〜1/3量と設定した。

 2回目の訪問時、疼痛は緩和していたが咳と痰が出現したため、リン酸コデイン60mgを分2で開始した。リン酸コデインは体内でモルヒネに置換され、本例ではモルヒネ6〜10mgに該当する。この時点から便秘のコントロールも強化している。

 3回目の訪問時には、患者から夜間のみ呼吸困難感があるとの訴えがあり、ベンゾジアゼピン系抗不安薬を通常の半量で開始した。

 4回目の訪問時には、痰に対し塩酸ブロムへキシンをネブライザーで使用し、残存する呼吸困難感には副腎皮質ステロイド剤を開始した。

 現在、患者のPSは1〜2に改善し、公共の交通機関を1時間ほど利用して外出を楽しめる状態になっているという。