癌患者は呼吸器感染症を起こしやすく、しかも難治性であることが少なくない。その構成要素には癌による解剖学的・機能的異常と免疫系の異常とが考えられ、時宜を得た適切な診断と治療が求められる。6月12〜14日に東京都で開催された第49回日本呼吸器学会学術講演会のシンポジウムで、静岡県立静岡がんセンター感染症科の大曲貴夫氏が解説した。

 70歳の女性は食道癌と診断されて消化器内科に入院し、化学放射線療法を行っていた。転倒により左大腿骨頚部を骨折し、hip screwで固定したが、長期臥床中に発熱・気道分泌物増加・咳嗽増悪を認めた。肺炎またはそれに類する疾患が疑われ、精査したところ、CTで膿胸の所見があり、食道胃透視で食道気管支瘻が発見された。

 大曲氏が提示したこの症例のように、固形癌の症例で肺感染症は多く発生する。難治性になるうえで抗菌薬耐性菌や免疫不全も関与するが、「忘れてはいけないのは、固形癌そのものが解剖学的な異常を起こし、そのために肺感染症が難治性となること」と大曲氏は注意を促した。

 肺癌や転移性肺癌の領域で固形癌が解剖学的に異常を起こし、難治性の肺感染症につながる原因として、閉塞性肺炎・肺膿瘍、肺瘻による膿胸、食道気管支瘻などがある。

 癌患者が肺感染症を発症しやすいのは、その他にも原疾患の影響や癌治療、補助療法などによりさまざまな免疫不全を起こしていることがある。臨床的に免疫不全を考える場合、大きく分類して好中球減少症、細胞性免疫の低下、液性免疫の低下が挙げられる。

 好中球減少症で最も感染に注意が必要な臓器は肺であり、固形癌と血液疾患の患者の双方にこの点は共通する。

 好中球減少状態で感染症を起こす場合、原因微生物として最初に考えられるのは細菌である。特に緑膿菌を含むグラム陰性桿菌は、疾患の進行の速さや重篤度から重要だ。好中球減少状態にあるグラム陰性桿菌肺炎患者のうち、38%では胸部X線写真で異常が認められないが、緑膿菌肺炎は初期治療が不適切な場合、48時間以内の死亡が50%を超える。

 細胞性免疫が低下した状態では、原因微生物の幅が広くなる。原因微生物は、単純ヘルペスウイルス(HSV)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)、サイトメガロウイルス(CMV)やインフルエンザウイルスなどのウイルス、Nocardiaなどの細菌、ニューモシスチスなどの真菌他、多種に及ぶ。

 ステロイドは感染症のリスクであると言われる。ステロイドの使用量と投与期間、併用薬剤、CD4の値、患者の背景(高齢・併存疾患)などについて一応の目安はあるものの、ステロイド投与下での感染症発症リスクの見積もりは困難である。

 しかし、実際にステロイドを使用している癌患者は多い。患者が呼吸器感染症を発症した場合は先に挙げた微生物を念頭におき、冷静に判断して見落としがないよう注意して診断しなくてはならない。診断が遅れれば、当然のことながら感染症は難治性となる。

 固形癌の患者に発症するニューモシスチス・カリニ肺炎(PcP)は、HIV-PcPの病態とは全く異なり、進行が速く、重症化しやすい。ステロイドを使用しているとリスクは高くなる。脳外科の癌患者を中心に多くの報告があり、死亡率は50%を超えるとも言われる。

 さらに頻度は低いが、固形癌患者にもアスペルギルス症は発生する。1993年1月〜2003年12月にアスペルギルス症と診断された13例の背景を調べたところ、好中球減少症の影響は低かったが、半数近くにコルチコステロイドが投与されていた。積算のプレドニゾロン換算の投与量の中央値は695mgであった。

 静岡県立静岡がんセンターにおいて、2002年9月〜2008年3月に結核を発症した24人の癌患者を調査したところ、うち22人は固形癌患者で、10人は抗癌剤治療または手術の中断や遅延を余儀なくされた。抗癌剤治療開始後に結核と診断されたのは7人で、うち5人は過去の胸部X線写真に、過去に感染した結核病変を認めていたことがわかった。癌の治療中に結核を発症することは治療における大きなブレーキとなり、状態の悪化に直結する。「このような患者をいかに発見するか、いかに予防するか、予防のためのターゲットをどのように選択するか。今後の私たちの課題と考える」と大曲氏は話した。