非小細胞肺癌NSCLC)において、DNA/RNA結合たんぱく質のYB-1核内発現は、抗癌剤感受性の鍵を握る重要なマーカーであるとともに予後マーカーでもあり、さらにEGFRファミリー遺伝子の発現も制御するなど癌の増殖に深く関与していることがわかった。6月12〜14日に東京都で開催された第49回日本呼吸器学会学術講演会のシンポジウムで、久留米大学医学部内科学講座呼吸器神経膠原病部門の東公一氏が発表した。

 進行NSCLCに対するファーストライン治療は、白金系抗癌剤と新規抗癌剤の併用療法が標準治療となっているが、予後についてはまだ満足できる成績に至っていない。またEGFR変異を有する進行NSCLC患者にはゲフィチニブファーストライン治療となる可能性も報告されているが、長期投与により二次変異が出現する可能性も指摘されている。

 このような状況から、既存の薬剤に対する有効なバイオマーカーを検出して予後の改善を図ること、そして薬剤耐性を改善することが急務と考えられる。

 抗癌剤の薬剤感受性遺伝子とみられるマーカーとして、白金系抗癌剤に対するERCC1ゲムシタビンに対するRRM1、上皮成長因子受容体チロシンキナーゼ阻害剤EGFR-TKI)に対するEGFR変異、イリノテカンに対するUGT1A1などがある。

 東氏らは、多剤耐性と癌細胞増殖に関与しているといわれるYB-1に注目している。

 YB-1はコールドショックドメインを有し、ヒト癌細胞の核内と細胞質に局在する。P-糖蛋白質(MDR1、ABCB1)などのABCトランスポーターやDNA修復関連酵素の発現を上昇させ、広く薬剤耐性の獲得について重要な鍵を握ると考えられる。さまざまな癌腫において、YB-1の核内局在や発現レベルはP-糖蛋白質依存性また非依存性の薬剤耐性や予後不良と有意な相関を示すことが報告されている。

 YB-1について、九州大学や産業医科大学の研究グループはこれまでに、卵巣癌、乳癌、骨肉腫などの多くのヒト癌腫との関連を報告してきた。EGFRなどの増殖因子や細胞周期関連遺伝子の発現をYB-1が制御していることも次第に明らかにしてきている。例えば、EGFRをはじめ、いくつかの増殖関連遺伝子のプロモーター領域付近に転写因子YB-1の結合部位であるY-ボックスの存在が確認されている。

 東氏らは、肺癌に対してもYB-1が同様の働きをしているのではないかと考え、ヒト肺癌細胞株を用いて、YB-1ノックダウンによるEGFRファミリーに属するEGFR、HER2、HER3などの発現への影響を検討した。ノックダウンされたヒト肺癌細胞株の中にEGFRファミリー遺伝子の発現が有意に抑制されていることが観察された。

 そこで、肺癌で手術を行った104人(腺癌66人、扁平上皮癌38人)の各手術検体で免疫染色を行い、YB-1核内発現を検討した。YB-1とEGFR、HER2、HER3などの増殖因子レセプターとの相関は、HER3で有意に認められた(p=0.038)。腺癌ではHER2、扁平上皮癌ではHER3と相関していることも明らかになった。

 さらに104人の予後との相関について単変量解析を行うと、EGFR、HER2、HER3などとは相関しなかったが、YB-1は有意に予後と相関することがわかった(p=0.028)。多変量解析でも同じ結果が得られ、YB-1が核内に発現した陽性の群では、陰性の群に比べて明らかに予後不良であった。

 YB-1がゲフィチニブの耐性遺伝子であるか否かを検討するため、104人中、術後にゲフィチニブを投与した26人の予後との相関を観察した。YB-1が陽性の群は、陰性の群よりも有意に予後不良であった(p=0.004)。この結果から、YB-1が核内に発現することにより、ゲフィチニブ耐性に関与することが示唆された。そのメカニズムについては現在検討中である。

 東氏は「今後、YB-1のNSCLCにおける臨床的意義について把握するとともに、耐性克服や増殖抑制に有用な治療マーカーとしての有用性について研究を進めたい」と述べた。