第49回日本呼吸器学会学術講演会が6月12日から14日までの3日間、都内で開催される。分子標的薬の登場で大きく変革しつつある肺癌治療のわが国における現状など、呼吸器疾患の最前線の研究が報告される。会長を務める永井厚志氏に話をうかがった。


――呼吸器癌の領域は、分子標的薬の登場で、大きく変わってきたように思います。

永井 分子標的薬あるいはモノクロナール抗体による治療は、これからますます増えてくると思います。従来型の治療法が大きく変わりつつあり、たくさんの新薬がこれから出てくるでしょう。ただし新薬の評価は、まだ一部の薬剤でしか定まっていないと私は理解しています。また、分子標的薬を従来の化学療法で使われていた薬剤とどう組み合わせれば良いのかという問題が、指摘はされていますが検証されていません。つまり、分子標的薬による治療という方法論は分かった。しかし、その使用法はまだ分かっていないというのが現状だと思っています。

 しかも、分子標的薬には、効果の面でも副作用の面でも人種差、性差があるかもしれません。このような生体の基本的な情報伝達のところまで作用する治療を行おうとすると、個別化治療というものが重要になってくるだろうと思います。あらかじめリスク回避のために分子生物学的な検査によって遺伝子多型を調べ、薬の効果あるいは副作用の予防が行われなければいけない。これはとても重要なことだと思います。

――特に心がけるべきことは何でしょうか

永井 肺癌学会という癌に特化した学会があります。そこで癌について集中的に議論をするのは、もちろんとても大切なことです。しかし、それだけではなく、呼吸器疾患全体に関する知識というものが、実際の癌治療では威力を発揮するものなのです。

 肺癌というと癌だけが体の中に存在しているような錯覚を覚えるかもしれません。しかし、実際には肺にいろいろな病気を持っている中から肺癌というものが発生してくるということが良くあるわけです。

 一般的に、肺癌は高齢者になればなるほど、他の病気と同じように発生率は高くなります。高齢者になると確実に肺の病気はどれも増えているわけです。そうすると、肺癌以外の肺の病気との兼ね合わせで癌を治療しなければなりません。これは難しいことですが、とても重要です。つまり、単に癌だけを勉強していてもだめなのです。癌をやる人は癌だけ診るというのはとんでもない話で、呼吸器の全般的な知識がなければ肺癌治療はできません。呼吸器の全部の勉強をしてくださいと申し上げたいのです。他の病気を知らないでは癌治療にならないのです。

――具体的にはどういうことでしょうか。

永井 肺線維症肺癌について今回の学会で取り上げています。肺線維症の中に肺癌ができた場合は非常に予後が悪いのです。ですから、これをどう予防したらいいか、あるいはどういう治療を選択したらいいかということが問題となります。特に分子標的薬による治療になると、ゲフィチニブなどが代表的ですが、肺線維症あるいは間質性肺炎があるとリスクが高いから基本的に避けようというコンセンサスになっています。でも本当にそうなのでしょうか。あるいは、ゲフィチニブが良く効く患者ならば別の薬を一緒に使ってやれば肺繊維症、間質性肺炎を予防できるかもしれません。結局は、やはり肺癌を治療するには肺線維症も知っていなければならない。間質性肺炎のメカニズムもよく知っていないとだめだということなのです。

 喘息とか肺気腫、肺浸潤、ARDSの研究も進んできています。これらの病気には、共通のメカニズムがあり、そのメカニズムの一部を押さえてしまったら、この病気はどうなるのだろうかと我々はすぐ考えるわけです。そういう頭を肺癌で活用しなければいけません。遺伝子で受容体の変異を見るのも個別化医療ですが、呼吸器全体として病気を捉えて、患者に合った治療を行っていくのも個別化医療といえるのではないでしょうか。

――癌以外にも当てはまりそうですね。

永井 今回の学会では全身的な病気の中の肺疾患という面を取り上げています。COPDなどのガイドラインを紹介するときにもみなさんにお話ししますが、COPDは肺に特化した病気ではなくて、全身的な病気だということを強調します。必ずしもCOPDだけではなくて、喘息も、ARDSもそうですし、ほとんどの病気に通じるものがあります。ですから、呼吸器学会だと呼吸器に特化したものの見方をしがちですが、本当はそうではなくて、呼吸器疾患が全身に与える影響を見ながら治療をしていかなければいけません。あるいは重症度を決めていかなければいけないということです。