EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)に不応となってから中枢神経系転移が制御できなかったことにより死亡した患者は、不応となってからも中枢神経転移について一定の制御が得られた患者と比べて予後不良で、T790M陰性例が多かったことが報告された。11月21日から22日まで東京で開催されている第54回日本肺癌学会総会で、先端医療センター総合腫瘍科の秦明登氏らが発表した。

 EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者ではEGFR-TKIが有効だが、やがて耐性を獲得し、およそ3分の1の患者では脳や癌性髄膜炎といった中枢神経転移が見られる。

 一般に、非小細胞肺癌において中枢神経転移は予後不良因子とされるが、EGFR-TKI獲得耐性後に中枢神経転移とT790Mの発現状態が予後に与える影響については報告が少ない。

 そこで秦氏は、進行性かつコントロール不良の中枢神経系転移が原因で死亡することを「CNS-collapse」と定義。EGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺癌患者のうち、T790Mの発現状態が確認できた92人を対象に、TKI不応となってからの生存期間(post-progression survival:PPS)とT790Mの発現状態について、CNS-collapseの有無別に検討した。EGFR-TKI獲得耐性は、過去の報告を参考に、病勢安定(SD)が6カ月以上得られた後に進行した場合と定義した。

 患者背景は70歳超が66%、女性が66%、喫煙歴のない患者が68%、腺癌が92%、PS 2-4が54%。EGFR遺伝子変異箇所はexon19が49%、exon21が48%、初めて使用したEGFR-TKIがゲフィチニブだった患者は79%、エルロチニブが20%。EGFR-TKIをセカンドライン以降で使用したのが64%、初治療のEGFR-TKI不応から再生検までの期間が4カ月以内だったのは53%。生検箇所は、脳脊髄液が28%、胸部が63%、脳転移巣が5%だった。脳転移有りは44%、癌性髄膜炎有りが42%で、CNS-collapseとなってしまった症例は35%だった。

 CNS-collapse有り群のPPS中央値は16.7カ月だったのに対し、CNS-collapse無し群は26.8カ月で、有意に予後が良好だった(p=0.0002)。CNS-collapse有り群の97%は癌性髄膜炎で死亡した。

 また、T790Mが発現している患者の割合は、CNS-collapse有り群で有意に多かった(43%対12%、p=0.0026)。

 癌性髄膜炎を発症した患者のPPS中央値は11.4カ月で、癌性髄膜炎を発症しなかった患者の26.8カ月と比べ、有意に予後不良だった(p=0.0006)。癌性髄膜炎を発症した患者の79%はCNS-collapse有りだった。

 一方、脳転移のあった患者のPPS中央値は25.1カ月で、脳転移のない患者の11.2カ月と比べて有意に予後が良好だった(p=0.0387)。これについて秦氏は「脳転移のない患者には、癌性髄膜炎で早期になくなった人も含まれていることが影響している可能性がある」と考察した。

 脳転移ありの患者(40人)の13%について摘出した脳転移巣を対象に、癌性髄膜炎を発症した患者(39人)の67%については脳脊髄液を対象に、T790Mの発現状態を調べた。その結果、検体が脳転移巣だった人の80%でT790Mの変異が確認された。一方、脳脊髄液から調べた患者でT790Mの変異が確認されたのは4%と有意に低かった(p=0.0008)。これについて泰氏は、脳脊髄液ではEGFR-TKIの曝露が不十分であったためにT790M陰性細胞が増えた可能性を指摘するとともに、T790M陽性細胞は転移能が低いことや脳脊髄液へ浸潤しにくい性質がある可能性なども指摘している。

 これらの結果から秦氏は、「CNS転移を制御できない患者は予後不良で、T790M陰性例が多かった。脳転移と髄膜転移は腫瘍の性質が異なり、最適な治療が異なる可能性がある。中枢神経転移を制御するためにEGFR-TKI獲得耐性例に対して高用量のEGFR-TKI投与するなどの治療戦略を検討する必要がある」と語った。

 なお、同試験の限界として、解析対象が再生検を受けた患者に限られていること、サンプルサイズが小さいこと、再生検時期が患者ごとに異なりT790Mの発現状態に影響を与えた可能性があることなどを挙げている。