MetとVEGFR2の共阻害薬であるTAS-115は、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)との併用により肝細胞増殖因子(HGF)存在下においてもEGFR変異肺癌細胞のEGFR-TKI感受性を回復させるとともに、血管新生を強く阻害し、HGFによるEGFR-TKI耐性の克服に有望と考えられることが示唆された。11月8日から岡山市で開催された第53回日本肺癌学会総会で、金沢大学がん進展制御研究所腫瘍内科の中出順也氏、矢野聖二氏らが発表した。

 EGFR変異肺癌はEGFR-TKIにより著明な腫瘍縮小効果が得られる場合が多いが、約1年後にはほぼ全例が耐性を獲得し再発する。獲得耐性の克服は重要な課題となっている。

 耐性メカニズムとして、EGFRのT790M 2次変異、Met遺伝子増幅が報告されており、さらに矢野氏らは2008年、HGFがMet/PI3Kシグナルを活性化し、EGFR-TKI耐性を誘導することを報告した。さらに同氏らは、日本人肺癌症例におけるHGFによる耐性の頻度を明らかにするため、国内12施設の共同研究でEGFR-TKIに獲得耐性となったEGFR変異肺癌23サンプルを解析した。

 その結果、EGFRのT790M 2次変異は52%、Met遺伝子増幅は9%で認め、HGF過剰発現は61%と最も高頻度に認められた。さらに、免疫染色で評価したHGFの発現は感受性腫瘍と比べて獲得耐性腫瘍で有意に高く(p<0.001)、臨床においてもHGFがEGFR-TKI耐性を誘導していることが示唆される。また同氏らは、HGFがMet/Gab1を介してEGFR変異肺癌のVEGF産生を刺激して血管新生を促進し、相乗的にEGFR-TKI耐性を誘導していることも見出しており、このVEGFは非小細胞肺癌の重要な治療標的分子として注目されている。

 これらの知見から、HGFによるEGFR-TKI耐性を克服するための治療戦略として、その受容体であるMetを阻害するだけでなく、VEGFの受容体であるVEGFR2も共阻害することでより強い抗腫瘍効果が得られると考えられた。そのため中出氏らは、VEGFR2阻害活性を併せ持つ新規Met/VEGFR2共阻害薬であるTAS-115をEGFR-TKIと併用することにより、血管新生を抑制し、HGFによるEGFR-TKI耐性をより効果的に克服できるか否かを検証した。

 EGFR-TKIはエルロチニブを使用し、TAS-115の対照薬として、Met阻害活性を有するがVEGFR2阻害活性のないクリゾチニブを用いた。
 
 EGFR変異肺癌株(PC-9、HCC827)を用いたin vitroの検討では、エルロチニブとTAS-115の併用により、HGF存在下でもこれら細胞株の増殖を抑制することが示された。また、HGF遺伝子導入株PC-9/HGFは、対照のPC-9と比べてエルロチニブに強い耐性を示したが、TAS-115を併用することで、Metが阻害され、TAS-115の濃度依存的に増殖が抑制された。さらにTAS-115は、HGFによるVEGF産生刺激を阻害するとともに、正常ヒト微小血管内皮細胞(HMVEC)に対しても濃度依存的に増殖を抑制した。以上の結果から、in vitroにおいてTAS-115のMet阻害と、VEGFR2阻害による血管新生抑制効果が確認された。

 In vivoの検討では、PC-9/HGFをマウスの皮下に移植し、移植の1週間後より、エルロチニブ50mg/kg、クリゾチニブ25mg/kg、TAS-115 75mg/kgをそれぞれ毎日経口投与した。治療群として、単剤投与、エルロチニブとクリゾチニブ併用、エルロチニブとTAS-115併用をそれぞれ比較評価した。
 
 治療開始1カ月後の腫瘍体積をみると、PC-9/HGF腫瘍では、エルロチニブ単剤と比べてエルロチニブとクリゾチニブの併用で腫瘍の増殖が有意に抑制され、さらにエルロチニブとTAS-115の併用でより強い増殖抑制効果が認められた(いずれもp<0.01)。
 
 抗腫瘍効果がクリゾチニブ併用よりTAS-115併用でより強く認められた要因について、治療開始4日目の皮下腫瘍で増殖シグナルを解析すると、クリゾチニブとTAS-115はMetのリン酸化を同様に阻害していた。このためTAS-115のVEGFR2阻害による血管新生抑制により抗腫瘍効果が増強された可能性が示唆された。治療開始4日目のPC-9/HGF皮下腫瘍を血管内皮細胞マーカーであるCD31で免疫染色を行うと、クリゾチニブ併用と比べて、TAS-115併用で有意に高い血管新生抑制効果が示された(p<0.01)。
 
 さらに治療開始1カ月後に投与を終了し、PC-9/HGF皮下腫瘍の再増殖を検討すると、エルロチニブとクリゾチニブ併用では投与終了後に速やかに腫瘍が再増大したが、エルロチニブとTAS-115併用では、投与終了後10日を経過しても腫瘍体積はほとんど変化せず抗腫瘍効果が維持されていた(p<0.01)。この要因について解析するため、投与終了後10日目の皮下腫瘍を免疫染色で評価したところ、CD31染色ではTAS-115併用で血管新生が強く抑制されており、アポトーシスマーカーであるTUNEL染色ではTAS-115併用腫瘍において陽性の細胞が多く、血管新生が強く抑制されることで細胞死が誘導され、治療終了後も抗腫瘍効果が維持されていることが示唆された。
 
 これらの結果から、中出氏は「EGFR変異肺癌のHGFによるEGFR-TKI耐性に対し、TAS-115はMetとVEGFR-2を共阻害することで細胞増殖を抑制するともに、強く血管新生を阻害し、細胞死を誘導することで、より強い抗腫瘍効果が得られる可能性が示唆された」と述べた。