肺癌の初回治療において、治療決定のための遺伝子変異を評価する体制の重要性は増している。静岡がんセンターは、昨年、新たに遺伝子変異プロファイリングシステムを導入し、このシステムによる胸部悪性腫瘍患者の評価を行った結果、患者の45%に何らかの変異が認められたと報告した。このシステムの運用および現状について、11月8日から岡山市で開催された第53回日本肺癌学会総会で、静岡がんセンター呼吸器内科の釼持広知氏が発表した。

 EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子変異などに代表される遺伝子変異の評価が、肺癌の初回治療の選択に不可欠になりつつある。今後、さらに多種の遺伝子変異の測定が必要になると予測されるが、日常診療において種々の遺伝子変異を測定するには多くの検体量を要することから、同センターでは、2011年、包括的遺伝子異常プロファイリングシステムを導入した。

 このシステムは、2009年11月のコンセプト作成開始から、院内治験審査委員会の審査などを経て、多くの関係者の協力のもと、2年後の2011年7月にようやく運用に至ったと釼持氏は語る。同センターのこの遺伝子プロファイリングシステムには、現時点で約780例が登録されている。
 
 このシステムへの登録対象となる検体は、細胞診・組織診にて、肺癌または悪性胸膜中皮腫などの胸部原発悪性上皮性腫瘍と診断された症例で、患者から文書での同意が得られることを条件に、(1)手術により得られた腫瘍組織および正常組織、(2)気管支鏡下の生検組織・気管支洗浄液、(3)経皮的生検組織、(4)末梢血(10mL)(5)胸水、とした。

 検索可能な遺伝子パネルは、EGFRやKRASをはじめ、BRAF、NRAS、PIK3CA、MEK1、AKT、PTEN、HER2などで、最近報告されたROS1やRETもすでに検索項目に加えている。また、METやPIK3CA、EGFR、FGFRなどの遺伝子増幅やEML4-ALKなどの染色体リアレンジメントについても評価可能なシステムとした。

 このシステムでは、まず検体となる症例を主治医が登録し、検体を病理診断科へ送る。そして、個人情報管理室を通して全検体を匿名化した後、同センター研究所の新規薬剤開発評価研究部でDNAやRNAを抽出または血漿分離し、その状態で−80℃で保存する(バンキング)。バンキングされた検体について、順次、融合遺伝子測定や変異解析が行われる。

 解析後の結果は、再び、個人情報管理室にて患者と連結させ、各々の患者の電子カルテに記載される。患者の電子カルテには、「遺伝子プロファイル」という項目を追加し、遺伝子異常の結果をいつでも参照できるようにしている。 
  
 全登録数780例のうち、実際に遺伝子解析が完了したのは438例(女性137例、男性301例)で、年齢中央値は69歳(31−92歳)、病期I/II/III/IV期はそれぞれ106例/62例/98例/165例、重喫煙者/軽喫煙者/非喫煙者はそれぞれ243例/99例/95例。

 疾患の種類別では、肺腺癌63.9%、扁平上皮癌16.2%、大細胞癌2.5%などNSCLCが全体の83.2%、小細胞癌(SCLC)が10.7%を占めた。また、測定したサンプルは、手術検体が172検体、生検検体が250検体、胸水・心嚢水検体が55検体。まだ数は少ないが、1人の患者で複数のサンプル測定が可能であることがこのシステムのメリットだと釼持氏らは考えている。
 
 遺伝子プロファイリングが完了した全438例のうち197例(45%)で何らかの遺伝子変異が認められた。

 釼持氏は「包括的遺伝子プロファイリングシステムの構築は現在も進行中であり、遺伝子異常プロファイルの結果を患者にフィードバックすることで、新薬の治験を含めたより効率的な薬剤の選択が可能になる」と締めくくった。