肺癌症例に対する1肺葉切除+縦隔リンパ節郭清手技において、胸腔鏡下手術VATS)との比較から、手術支援ロボットのda Vinci S Surgical System(以下、ダヴィンチ)を用いた手術で同等の低侵襲手術が可能と考えられる結果が示された。11月3日から大阪市で開催された第52回日本肺癌学会総会で、藤田保健衛生大学呼吸器外科の須田隆氏が発表した。

 ダヴィンチ手術の最大の特徴は、双眼鏡での鮮明な3D画像と多関節を有する鉗子の存在であり、これらの使用により手術手技における正確性と高い操作性が可能になる。

 須田氏らは、肺癌症例に対するダヴィンチ手術の初期成績を同時期に行われたVATSと比較し、ダヴィンチ手術とVATSの比較検討を行った。

 対象は、2009年11月から2011年6月までに同科で施行された原発性肺癌手術167例から、開胸症例、肺全摘、2葉切除症例、隣接臓器合併切除症例、手術時間に影響する縦隔鏡施行例などを除外し、1肺葉切除術+縦隔リンパ節郭清が同一術者によって行われた40例。ダヴィンチ手術は12例(ダヴィンチ群)、胸腔鏡下手術は28例(VATS群)だった。

 ダヴィンチ群の平均年齢は57.9歳、男性は50%だった。部位では右肺上葉(RUL)が33%で最も多く、病期では、IA期が75%、IB期9%、IIB期とIIIA期がそれぞれ8%だった。VATS群の平均年齢は63.6歳、男性は79%だった。部位では左肺上葉(LUL)が29%で最も多く、病期では、IA期が57%、IB期とIIB期がそれぞれ18%、IIIA期が4%、IIA期が3%だった。

 手術時間は、ダヴィンチ群の282.8分に対しVATS群は163.5分で、有意にダヴィンチ群で長かった(p<0.001)。

 出血量は、ダヴィンチ群103.2g、VATS群56.6g、リンパ節郭清個数はそれぞれ25.5個と16.6個で、いずれも有意差はなかった。

 術後のドレーン留置期間はダヴィンチ群2.66日、VATS群4.03日で、有意差はなかった。Visual Analogue Scale(VAS)スコアは、術後1時間ではダヴィンチ群42.5、VATS群41.2、術後5日目ではダヴィンチ群24.0、VATS群15.8となり、有意差はなかった。VATS群で1例に気胸の遷延があり、再手術が行われた。
 
 今回の検討では症例数は少ないものの、手術時間を除き、ダヴィンチ群とVATS群で同等の成績が示された。

 手術時間について、VATS群とダヴィンチ群の導入時の学習曲線を比較すると、ダヴィンチ群で明らかな短縮が認められた。

 須田氏は、ダヴィンチ手術はその特徴から、「開胸手術と近い感覚で手術を行うことができる。鏡視下手術による肺癌手術をより一般に普及させる可能性を持つと思われる」と話した。

 疼痛について、今回の検討では術後短期の評価のため差がみられなかった。VATSでは長い直線的な器具の使用により肋間下方の肋間神経を圧迫し、術後の神経障害を引き起こすが、ダヴィンチ手術では胸腔内に鉗子の関節が存在するため、圧迫を回避し、神経損傷を減少させる可能性があると指摘されており、同氏は「術後長期の慢性疼痛の評価が必要」と考察した。

 ダヴィンチ手術の欠点として、触覚の欠如が挙げられるが、須田氏によると良好な視野で十分補えるという。また現時点では自費診療となるため、約220万円の費用がかかる。

 須田氏は「ダヴィンチ手術は気管支形成術などの高度な手術手技に有用。手術手技の容易さの質的評価は難しいが、ダヴィンチによる手術手技の容易さ、正確性は安全性につながる」と話し、今後、低侵襲手術である胸腔鏡下手術より安全かつ速やかに導入可能となることを証明していきたいとしている。