第52回日本肺癌学会総会が、11月3日から2日間、大阪市で開催される。会長を務める大阪市立総合医療センター副院長の多田弘人氏に、今回の総会のプログラムについて話を伺った。


──今回の肺癌学会のテーマを「情報の共有と知の創造」とされました。このテーマに込められた思いをお聞かせください。

多田 私が外科医になった頃、肺癌だけでなく、乳癌の手術もしましたし、大腸癌、胃癌の手術も、何もかも行ってきました。もっと前では内科と外科しかありませんでした。しかし最近では、いろいろな分野で「専門家」が増えてきています。例えば、呼吸器外科でも、肺癌を専門とする医師と移植を専門とする医師に分かれる傾向にあります。

 細分化が進むのはもちろん良い部分があるのですが、それだけで良いのか?患者のニーズに応えられるのか? と思うのです。

 例えば、緩和ケアは本当の終末期から始めるよりも、癌と診断された早期から始めると予後が良くなることが分かってきました。患者に、緩和ケアの有効性を説明し、緩和ケアも受けるよう薦められることが求められています。

機能分化しているわけですから、次のプロフェッショナルにお願いする事になりますが、大切なのは「うまくバトンタッチする」ことです。自分の周りの領域の治療について、できること、限界を知っていれば、良い引き継ぎができます。手術が不能になって化学療法を行うために内科医にお願いする際、「手術はできなくなりましたが、化学療法によってこれからの生活をよくしていける可能性があります」と患者に伝えてから送れるかどうか。次のステップへの説明をある程度してから送り出すことができれば、患者にとっても受け取る医師にとっても無駄がなく、見捨てられたという思いも抱かず、次の治療に前向きに取り組むことができるのではないかと思うのです。

 そのためにも、自分の専門領域だけでなく、幅広い知識を身につけるよう「情報の共有」が必要です。外科医に外科以外の領域の話も聞いて欲しい。肺癌学会は、基礎研究から病理、外科、内科、緩和ケアなど幅広く網羅している学会ですから、それが可能だと思います。

 さらに、今回の総会では、本学会として初めてプレナリーセッションを設けました。1日目の13時20分からです。この時間帯はプレナリーセッション以外にはプログラムを組んでいません。肺癌にかかわる全ての医師が知っておくべきことを集めていますので、是非聞いていただきたいと思います。

 また、教育講演を、最も広い第1会場で行うようにしました。ポスター会場も広い場所を確保しています。しっかり情報を得ていただき、ディスカッションによって新しい知見につなげていただく場を提供できれば、嬉しい限りです。

──肺癌領域で先生が注目されている話題をお聞かせください。

多田 個別化医療がますます進んでいくのは間違いありません。私自身、EGFRの変異によってゲフィチニブの効果が異なることが示されたとき、EGFR変異陽性癌とEGFR変異陰性癌は、いずれも肺にある癌ですが、全く異なる癌であるのではないかと感じました。

 ただ、個別化が進むと1つの“癌”に対して患者数が少なくなります。これからは1つの国だけで臨床試験を行うのは難しくなり、国際共同治験がますます重要になっていきます。

 一方で、EGFR変異陽性例は、アジアでは25%ですが、欧州で7%、米国では10%程度です。EGFR変異陽性例だけを対象とした臨床試験に欧米は積極的にならないでしょう。

 例えば、世界で初めて日本で承認された経緯を持つゲフィチニブについては、EGFR変異陽性肺癌に対するアジュバントでの使用については適応がありませんし、効果について知見がありません。我々が積極的にエビデンスを示していく必要があります。

 そこで我々は、非小細胞肺癌完全切除後II-III期のEGFR変異陽性例だけを対象とし、術後補助化学療法としてゲフィチニブとシスプラチン+ビノレルビンを比較するフェーズ3臨床試験を、多施設共同医師主導治験として最近開始しました。アジュバントによる再発抑制効果について、無病生存期間を評価する試験です。

 個別化が進むと、国を超えて実施する臨床試験が必要となっていくでしょうが、一方で我々が独自に示していかなければならない知見も増えていくのではないかと考えています。