第84回日本胃癌学会総会が2月8日から10日までの3日間、大阪市で開催される。会長を務める国立病院機構大阪医療センター外科科長・がん診療部長の辻仲利政氏(写真)に今回の胃癌学会のトピックスをうかがった。


──今回の総会のテーマを、「変革(innovation)、連携(cooperation)、発信(transmission)」とされました。そこに込められたお考えをお聞かせください。

辻仲 今回の学術集会は、胃癌学会が一般社団法人となってから初めての学術集会です。これまでは任意団体でしたが、今後は社団法人として広く社会に貢献していく、より社会的役割を発揮する必要が出てきました。

 社団法人化に伴って、、胃癌学会組織上にプログラム委員会が新たに設置されました。従来と違い、学術集会プログラムはプログラム委員会により承認および修正を受けることが正式に決められたのです。会長企画のシンポジウムなどを含めたプログラムは、総会長がプログラム委員会に提案し、議論していただいた上で最終決定されます。これによって、毎年総会の内容がころころ変わる、また総会長により大きく変わる、ということがなくなり、一貫性を持たせることが出来ます。学術集会において「教育」には重要な位置づけが与えられるところから、教育講演なども充実されて行きます。学会と学術集会は変革され、新しい方針で議論を積み重ね、そしてその結果を発信していくのです。

──講演要旨に胃癌と胃癌治療そのものも変わると書かれています。

辻仲 従来、胃癌手術、特に早期胃癌手術は外科医の登竜門としての手術であり、若手外科医の教育に役立ってきました。いわば「どこでも誰でも治療できる」というものでした。

 しかし、胃癌そのものが変わろうとしています。団塊の世代が60〜80歳になっていき、高齢者の胃癌が増加していくでしょう。一方で、若年者の罹患率は減少していますが、ピロリ菌に起因する胃癌が減少し、西洋型の上部胃癌が増加するでしょう。肥満例も多くなってきています。早期胃癌の割合は現在以上に増えることはないでしょう。この先、簡単な胃癌手術が少なくなります。これまでに確立してきた治療がそのまま適応できるのかまた適応することが妥当なのか今後の課題でしょう。

 腹腔鏡下胃癌手術件数が増加し続けています。しかし、これまで蓄積してきた、進行胃癌に対してD2を基本とした郭清が必要という治療レベルは維持する必要があります。進行胃癌に対する腹腔鏡下手術は、まだ誰もができる手技ではありませんし、開腹手術と少なくとも治療成績は同等であるというエビデンスが必要でしょう。また、開腹手術を上回るメリットが示されるべきだと思います。今回、多くの腹腔鏡下手術に関する演題が発表されます。これらの結果をもとに活発な議論がされることを期待しています。

 胃癌においての化学療法の位置づけが高まってきています。術後補助化学療法、さらに術前療法も選択肢の1つとして定着してきています。さらに、分子標的薬も登場してきました。化学療法を行う際に必要とされる知識は著しく増えています。また、十分な経験も必要になるでしょう。

 こうしたことを考慮すると、胃癌治療は「どこででも、誰でも」というものから、経験を積んだ医師、施設で行われるべき、という考え方にシフトしていく方が良いのかもしれないわけです。そのため、学会初日には、「専門医・指導医制度と施設認定制度は必要か」という特別企画討論会を行います。これからの胃癌診療の質をいかに担保するのかについての制度設計が必要になっていくことは間違いありません。まだ何か結論が出せるような段階ではありませんが、先を見越して、議論は始めていかなければならないと思います。

 また、国内だけでなく、海外との連携も重要です。胃癌治療については、日本が世界の先頭を走ってきました。日本と同じく胃癌が多く、背景も同じ韓国とは特に連携していく必要があります。手術適応や術式、術後補助化学療法や進行胃癌に対する化学療法なども含め、解決すべき課題にともに取り組んでいくための情報交換、交流の場になればと思っています。最近、欧州でもD2郭清が標準であることがガイドラインに盛り込まれました。欧州ではD2郭清をどのように行っているのか。我々のD2郭清と同じなのか異なっているのか。特別企画シンポジウムで行う予定のこのような議論は世界でも初めてです。

──準会員制度も設けられました。

辻仲 今回、法人化の際、新たに準会員制度を設けました。看護師、薬剤師、栄養士をはじめとした癌治療にかかわる医療専門職の方々も会員に加わっていただいて学術集会に参加していただく趣旨です。会費を低く抑えましたが、演題の発表も可能です。正会員との違いは評議員選挙の投票資格がないだけであとは変わりません。

 例えば、化学療法は医師だけでできるものではありません。多くの医療専門職の協力があってこそ有効に安全に行うことができるものです。現在は経験論的に行われている術後の栄養管理や術後回復プログラム(ERAS)も、栄養士が積極的に関与することで患者のQOLがもっと良くなるのだ、というエビデンスを出していくことも必要だと思います。

 任意団体による学術集会であれば、「誰もがやったことがない新しいこと」「面白いと思うこと」を発表するだけの場、すなわち学術的成果の発表の場でよかったと言えます。しかし、社団法人化した以上、たとえ患者が聞いても納得できる学術集会でなければいけません。社会的責任を担う胃癌学会の役割を展開するため、社会に開かれた学術集会となることが大切です。胃癌診療の標準化とそのための制度設計、新しい治療のエビデンス構築と世界に向けての発信、そして継続した教育が重要です。