第83回日本胃癌学会総会が3月3日から5日の3日間、三沢市で開催される。胃癌診療の最前線の研究結果が報告される。会長を務める坂田優氏に話を聞いた。



――最近の胃癌診療のトピックスは何でしょうか。

坂田 まず、手術による成績が非常によくなった上に、アジュバントに使う薬剤が決定し、アジュバント後に再発した人たちの治療法の開発も進んできました。複数のフェーズ3試験の結果が出て進行胃癌に対するファーストラインの標準治療が固まってきました。さらにセカンドラインも決まれば、胃癌の標準治療の流れができるのではないかと思っています。

 言い換えれば、エビデンス作りに今まで専念してきたことが、一つずつ成果を上げてきたということです。そこで、今回の学会のテーマを「創造、ここからの展開」、つまり今まで作りあげたことを、広げていきましょうとしたわけです。

 日本の胃癌治療が非常に進んでいる理由の一つは、医者も国民も、みんなで胃癌をやっつけようとしたところから始まっていることです。集団検診を行い、診断技術、手術も向上し、抗癌剤の開発も進んできました。がんセンターや大学などの専門施設だけでなく、地方の一般病院も参加して進めて来たのが日本の胃癌診療の特徴です。どんなにがんばっても欧州や米国では真似できないと思います。

 その結果、日本の場合は、専門施設だけでなく、どんな地方であっても診断する内科医が1人、手術する外科医が2人いれば、大都会と遜色のない治療ができるようになっています。とてもすばらしいことです。

 さらに何かを作り上げるということを、三沢市のような地方からでもやりましょう、それが「ここから」の意味です。小さなところからでもずっと知識が広がっていくというのが、今の日本の胃癌診療です。だからこそ、今回のように胃癌学会を地方でやる意味があるのです。

――化学療法のトレンドは何でしょうか。

坂田 一つは、5FU系、タキサン系、プラチナ系、イリノテカンの4系統の薬剤を全部使い切ると、生存期間が延びることが分かってきたことです。今までは「使い切ればいい」という程度にしか思われていなかったのが、具体的に数字で証明されてきました。

 二つ目は、世界中でシスプラチンをオキサリプラチンに変えてもよいという声が高まってきたことです。次第に変わっていくでしょう。

 三つ目は、分子標的薬です。今はトラスツズマブだけですが、ニモツズマブやエベロリムスなど新しいものの開発が進んでいます。ベバシズマブのAVAGAST試験は主要評価項目こそ達成できませんでしたが、少なくとも無増悪生存期間(PFS)を伸ばせることが示されました。新しい分子標的薬もいずれ登場してくるでしょう。

――胃癌の研究者に対して伝えたいことは何ですか。

坂田 いったん一つのことにはまったら、それを最後まで全うしろということです。最近は目先の華やかさにとらわれる人が多すぎると思います。1人の人間ができることはたかがしれています。いくつも次々とできるということはありえないのです。医学はアートですから、担い手であるアーティストは1つのことずっとそれを続けるのが真髄です。それが成功するという意味ではありません。これがいいと思って始めて、何も仕上がっていないのに次の年に変えてみたりするというのは駄目だということです。

 私は37年間ずっと化学療法をやっています。最初の頃はひどく馬鹿にされたものです。しかし、長年継続して化学療法に取り組んだ結果、数多くの人と知り合えて化学療法の哲学を学び教えることができたと自負しています。昔は、私に化学療法を教えてくださった先生とは20歳の差がありました。その間に、誰もいなかったのです。今は一番近い下の年齢の医師が4〜5年の差でいて、その下には大勢います。人脈と人を育てることには成功しました。日本に、化学療法をきちっと伝えていかなければならないと思った1970年ころの最初からの発想がそのままつながったのです。