HER2陽性胃癌アジュバント試験に関する公開討論会が、第82回日本胃癌学会総会(3月3日〜5日、新潟市)で開催された。ToGA試験トラスツズマブの転移性胃癌に対する有効性が明らかになり、術後補助療法としても期待が寄せられている。国立がんセンター東病院の大津敦氏がToGA試験の経緯から現在計画中のアジュバント試験の概要を説明し、試験への理解と協力を呼びかけた。

 昨年6月、米国臨床腫瘍学会(ASCO)でToGA試験の結果が発表され、HER2陽性転移性胃癌において、カペシタビン(または5-FU)+シスプラチンへのトラスツズマブの追加は、有意に生存期間を延長させることが明らかになった。しかし、S-1を中心とした化学療法のエビデンスがある日本にとって、試験への参加は「苦渋の選択だった」と大津氏。カペシタビン+シスプラチンベースの治療を受け入れるのは難しかったが、S-1とカペシタビンの差よりも、トラスツズマブ導入による生存への上乗せの方が患者利益にとって大きいと考えた末の選択だったという。

 ToGA試験が成功裏に終わり、次のステップはトラスツズマブによる術後補助療法になるが、HER2陽性胃癌の頻度は20%程度で、RCTに必要なスクリーニング症例数は4000例にも上るという。そのため一国で患者集積できるのは日本か韓国しかない。現在候補となっている試験デザインは、S-1とカペシタビン+トラスツズマブの2群比較試験と、S-1とS-1+トラスツズマブ、XELOX+トラスツズマブの3群比較試験である。

 厚生労働省がん研究助成金による消化器がん部門会議(瀧内班)で検討した結果、「S-1とS-1+トラスツズマブ、XELOX+トラスツズマブの3群比較試験が望ましいが、1万人近いスクリーニングが必要で、症例数的に実施困難、かつオキサリプラチンも未承認である」との結論に至ったという。そのため、S-1とカペシタビン+トラスツズマブの2群比較で行う方向で、かつS-1とS-1+トラスツズマブの可能性も残すとした。

 S-1とカペシタビンはどちらも経口5-FU系抗癌剤であり、胃癌に対する効果に明らかな差はないと考えられている。またカペシタビン+トラスツズマブの有効性と安全性は乳癌と胃癌ですでに確認されている。

 「HER2陽性胃癌アジュバント試験は、日本人および世界の胃癌患者の治療成績向上、薬物療法の個別化医療の流れ、今後のアジュバントへの適応試験のモデルとして極めてインパクトが高いもの」とした上で、「大事なことは患者にトラスツズマブを投与できる体制にすること」と大津氏は述べ、試験実施に向け協力を依頼した。

 会場からは、「S-1とカペシタビン+トラスツズマブの2群比較では、患者さんへの説明が難しい」という意見もあったが、「5-FUの違いよりもトラスツズマブを追加するか否かの違いの方が大きい。乳癌でもトラスツズマブはさまざまな化学療法薬と併用されている」、「透明性を高めて、患者さんの意見を求めてはどうか」、「学会がこの試験をサポートする形をつくってほしい」など、様々な意見が述べられた。