第82回日本胃癌学会総会が3月3日から5日までの3日間、新潟市内で開催される。大きく変わりつつある胃癌治療の最前線の研究成果が報告される。会長を務める新潟県立がんセンター新潟病院臨床部長の梨本篤氏(写真)に胃癌領域のトレンドをうかがった。



会長を務める新潟県立がんセンター新潟病院臨床部長の梨本篤氏

―― 胃癌領域の最近のトピックスは何ですか。

梨本 まずに挙げられるのは、腹腔鏡下手術でしょう。低侵襲手術、つまり患者さんにやさしい手術ということです。器械の改良が進み、指導者も数多く育ってきました。施行症例が続々と増えており、日本内視鏡外科学会の最近のデータでは、手術を受ける患者さんの約2割を占めるようになってきており、かなり多くなっていると感じました。

 県立がんセンター新潟病院では今でも開腹手術が中心ですが、昨年から腹腔鏡手術を始めました。しかし、腹腔鏡検査はかなり以前から行っており、1999年よりT3/T4胃癌に対しては診断的腹腔鏡検査を開始しています。腹膜転移等を手術前に検査し、治療方針を決める方法として積極的に行っています。この検査は全身麻酔を行うので、大学病院などでは手術室の時間が取れず、思ったほど進んでいないのが現状です。しかし、欧米では当たり前のように実施されており、腹腔鏡検査によって治せない因子が見つかった場合は手術をしません。このことは徹底しています。日本ではまだ開腹してから、どうするか決める風潮があると思いますが、できるだけ減らすべきだと思っています。

―― 内視鏡はいかがでしょうか。

梨本 トピックスとなっているのは内視鏡を用いた治療です。胃癌治療の2割は腹腔鏡によるものですが、内視鏡によるものも2割程度あるようです。内視鏡治療はガイドラインに則って適応を決めていますが、現在、適応の拡大が盛んに試みられています。内科の先生方も内視鏡治療件数を重ね、経験が豊富になり、手技が向上しています。穿孔した場合や出血した場合でも処置できるわけです。胃癌を発見するのは内科の先生が多いでしょうから、そのまま治療するケースは増えていくと思います。

 治療方法も、EMR(内視鏡的粘膜切除術)から、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)に移行し、大きな胃癌病変でも内視鏡で切除できるように、進歩してきています。ただし、時間がかかりすぎるのが問題です。時々、10時間もかけて実施した症例報告がみられますが、患者さんに大きな迷惑をかけているのではないでしょうか。ガイドラインで適応をしっかりと決めていく必要があります。2004年の胃癌治療ガイドラインでは、内視鏡切除に関しては、安全性に非常に気を遣って適応範囲を決めています。それからもう6年たち、症例も蓄積されてきたので、おそらく適応拡大を新しいガイドラインに盛り込むことになるでしょう。

―― 胃癌治療ガイドラインの改定はどのような内容ですか。

梨本 3月3日にコンセンサスミーティングが行われます。胃癌取扱い規約の更新は、学会までに間に合います。しかし、胃癌治療ガイドラインはまだ決めかねているところがあります。今回の学会で行われるコンセンサスミーティングでアンサーパッドを使って先生方の意見を集約し、それを参考にして完成させる計画です。

 大きく変わったところは胃癌の進行度分類です。今までは胃癌取扱い規約という日本独自のものがあって、UICC(International Union Against Cancer;国際対がん連合)のTNM分類よりも先行していました。しかし、UICCも独自に分類を進めており、両者が乖離したまま来たわけです。そこで今回はUICC、AJCC(American Joint comittee on Cancer)と話し合いを持った結果、胃癌取扱い規約の進行度分類とTNM分類を融合させました。日本の方が進んでいるところはそのまま継続しますが、UICCのTNM分類とほぼ同一の改訂になりました。

―― 化学療法ではどんなものが話題でしょうか。

梨本 化学療法において話題の1つは、3剤併用療法でしょう。S-1+シスプラチン+ドセタキセルという3剤併用療法(DCSレジメン)は奏効率が高く、80%を超えると報告されています。北里大学で第II相試験が終わり、論文化されています。ただし、このレジメンは骨髄抑制が相当強いので、時にG-CSFを使用する必要があり、入院して投与することが原則です。

 また、DCSレジメンの試験は内科の専門医が行ったものです。いずれは外科医がDCSレジメンを使用するようになるでしょう。そこで、外科でもできるように副作用を軽減することを目指して、私たちは分割DCSというレジメンの第II相試験を行っているところです。手応えはかなり良いです。

 もう1つの流れは、分子標的薬です。ToGA試験が成功裏に終わり、HER2発現胃癌にトラスツズマブが使われるようになるでしょう。また、ベバシズマブを使ったAVAGAST試験も行われています。乳癌や大腸癌では分子標的薬が実用化され、良い成績を出しているようですので、胃癌領域でも期待が大きいのです。

 乳癌や大腸癌では、欧米で臨床試験が着々と進み、その結果を取り入れて、日本でも薬剤が承認されます。ところが胃癌は、患者数の少ない欧米では臨床試験が施行しにくいため、アジアが中心となって臨床試験を行い、エビデンスを作らなければいけないのです。

 ですから今回の学会は、「アジアからのメッセージ」もテーマの1つにしています。アジア諸国での臨床試験をとりまとめて発信したら、胃癌における分子標的薬の実用化はもっと早くなるのではないかと思います。今回の学会には、中国からも約100人の医師が参加しますし、韓国からも100人を超える参加者が来る予定です。アジアの交流を深める良いきっかけになればと思っています。