早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術ESD)は、潰瘍を伴わない分化型粘膜癌では、長軸方向に5cm程度までの表層拡大は可能だが、潰瘍を伴う粘膜癌では、分化型・未分化型とも適応拡大は時期尚早――3月4〜6日に東京で開催された第81回日本胃癌学会総会のシンポジウム「ESDの適応拡大」において、現段階での一定のコンセンサスが得られた。

 日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」では、2cm以下の潰瘍を伴わない分化型粘膜癌が、内視鏡的治療の適応病変とされているが、実際には、適応を超えた病変でも内視鏡的治療が行われている。では、どこまで適応拡大が可能なのか。シンポジウムでは、2.1cm以上の潰瘍を伴わない分化型粘膜癌、3cm以下の潰瘍を伴う分化型、未分化型粘膜癌について5人の演者が議論した。

 まず2.1cm以上の潰瘍を伴わない分化型粘膜癌について、佐久総合病院胃腸科の小山恒男氏は、昨年の日本消化器内視鏡学会で集計した全国調査のデータを報告した。予後が把握できた12施設9033人のうち、適応拡大をした分化型症例は4207人で、一括切除率は93%、一括完全切除率は86%、現病死は1人のみだったという。このため、2.1cm以上の潰瘍を伴わない分化型粘膜癌は、適応拡大の対象として妥当であるとした。

 表層拡大の範囲としては、長軸方向に5cm程度までは内視鏡的治療が可能というコンセンサスがディスカッションで得られた。10cmを超えるケースでは胃の機能不全が生じることがあり、特に、前庭部における全周切除や長軸方向に4〜5cmと長い場合は、ESDは難しいという意見が出された。

 次に、潰瘍を伴う粘膜癌について、静岡県立静岡がんセンター内視鏡科の小野裕之氏らが、ESDを施行した1372人の治療成績を報告した。それによると、一括断端陰性切除率はガイドラインの適応例では97%、3cm以下の潰瘍を伴う分化型例では89%だが、治癒切除率はそれぞれ88%、56%、垂直断端陽性あるいは判定不能が2%、9%、穿孔率は3%、10%だった。

 現在、2.1cm以上の潰瘍を伴わない分化型粘膜癌と、3cm以下の潰瘍を伴う分化型粘膜癌を対象とした、JCOG0607試験が進行している。予定登録数は330人で、6月には集積が終了する見込みだ。小野氏は、潰瘍を伴う分化型粘膜癌への適応拡大に関しては、JCOG0607試験の結果を待ちたいとした。

 未分化型粘膜癌ではリンパ節転移の可能性が大きな問題となる。癌研究会病院と国立がんセンターの治療データでは、未分化型早期胃癌において、2cm以下の粘膜癌で潰瘍を伴わず、脈管侵襲が陰性の症例では、リンパ節転移が見られないことが報告されている。

 しかし、国立がんセンター中央病院内視鏡部の後藤田卓志氏は、「2施設における結果であり、これによって未分化型癌に対してもESDを行うように勧めているわけではない」と念を押した。他の演者らも、この結果が一人歩きしてしまうことを危惧する声があった。また、2cm以下の未分化型癌はそもそも少なく、潰瘍の有無がはっきりしない例も多い。そのため、未分化型への適応拡大は時期尚早であるとの見解で一致した。